なぜ幽霊には足が無いの
テレビ番組に心霊現象とか怪奇特番が流される季節になりました。葬儀会館の見学者の中にも、このような話題が好きで突っ込む方がおられます。真面目な顔をして聞いてくるのです。
「お葬式をしていない時の葬儀会館は何だか不気味ですよね。やっぱり幽霊とか出るのですか?」答えは決まっています。
死体が毎日運び込まれる場所ですから、気味が悪いと感じて幽霊に結びつけるのは解ります。幽霊は生きている人に何かを告げに来るとか、要求するために出るようです。中には怨恨に基づく復讐で現れることもあります。ちなみに幽霊の他におばけと妖怪もいますが、この区別は、幽霊は人間の霊、おばけは人間以外の霊、妖怪は人間に悪さをする霊だそうです。
幽霊の概念は日本だけでなく西洋や中国など全世界に広く信じられています。各国の幽霊は人の姿を現していますが、日本の幽霊には足がありません。なぜ日本の幽霊は足が無いイメージになったのかご存じですか?
日本の幽霊に足がなくなった原因は、江戸時代に円山応挙という浮世絵師が幽霊の絵を足無しで描いたのが起源と言われています。それ以前は日本の幽霊にも足はついていたのです。それまでは幽霊を絵に描く人はいませんでした。円山応挙が初めて幽霊を具体化しました。応挙の幽霊画は瞬く間に有名になりました。これ以降、日本の幽霊には足がないのが認知されました。
国宝になった幽霊図(お雪の幻)に足を描かなかった理由は様々な説があります。亡くなった奥様を想い出して描いていたのですが、途中で悲しみのあまり腰から下が描けなくなったからだとか、絵を描いている途中で墨が無くなりそれ以上は筆をすすめる事が出来なくなくなったなど、真相はいまだに解りません。
お葬式という儀式が考え出された大きな理由の一つに、死人が幽霊になるのを防ぎ成仏してほしいという、残された人々の願いがあると思います。毎日、葬儀会館には死んだばかりの人が集まります。中には、さ迷う魂がいるかもしれません。
死亡診断が出ても、火葬炉に入り身体が消えるまで、魂は亡骸の傍に漂うと聞いたことがあります。人間は亡くなっても直ぐには死んだことがうまく理解できず、魂が自分の身体に寄り添うそうです。お葬式の最中は、天井から遺族や参列者の様子をじっと見守るとも言われます。これからお葬式に参列されたら故人に話しかけてください。必ず天井で聞いているはずです。葬儀後火葬炉で身体が燃えてしまうと極楽への旅が始まるのです。
見えるなら幽霊に会ってみたいと思うことはありますが、残念ですが今までにそのような経験はありません。見える能力を持った人間は葬儀屋にはならないでしょう。
幽霊の質問の答えは、いつも決まっています。
「ここでお葬式をした仏様は、すべて成仏しておりますので、幽霊にはなれません」