見事な骨格標本で出るぞ
数時間前に棺桶を入れた火葬炉の扉が再び開きます。炉からお骨が出てくる時は、皆様に一瞬緊張が走ります。もし黒焦げ半生の死体が出てきたらどうしようと思うようですが、ホラー映画ではないのでご安心ください。火葬場の職員さんは、とても注意しながら綺麗な状態に焼き上げてくれます。理科室にあった骨格標本のように全身が出てくる火葬炉もありますが、この頃はショックを和らげるためか、焼骨を山盛りに集めてから、参列者を呼び込み収骨をさせる火葬場が増えてきました。
お骨の拾い方には、一つのお骨をペアとなっている2人同時に箸で拾い上げるという方法や、1人が拾い上げたお骨をもう1人に箸から箸へと受け渡す方法などがあります。無事に故人が三途の川を渡り、あの世へ渡れるように「橋渡し」をするという言い伝えから始まった儀式です。骨拾いに使う対の箸の材質が各々違っているのに気が付きましたか?わずかに長さの異なるものが組み合わされていたり、竹製の1本と木製の1本とでセットとなっていたりと、通常の箸とは違うつくりとなっている場合が多く見られます。これは、繰り返してほしくない葬儀全般に見られる「あえて日常では行わないことをしてみる」という考え方に基づいています。
最初に火葬場職員が探して、大事に拾うのが、魂の残る大事なお骨と説明される「のどぼとけ」といわれるお骨です。我々が呼んでいる実際の喉仏は軟骨ですので燃えてしまいます。探し出された、燃え残っている小さなお骨は第二頸椎です。このお骨は、形が大仏様のように突起や曲線の感じが、仏様が座禅をしている姿によく似ています。その形状がありがたがられてこの骨を大切に拾い上げるという風習が生まれました。時に関西は「本山納骨用」と呼ぶ専用の骨壺に納める風習があります。
全身がそのまま骨格標本のように出てきた場合は、足元の骨から拾い始めます。骨壺の中で立ち上がる様に納めていくのです。足先から始めて太ももの大腿骨に移ります。人間の身体の中で一番大きな大腿骨はそのままでは骨壺に入りません。中ほどで割るか関節部分だけを拾います。腰骨から肋骨へと上半身に向かって順に拾います。背骨は24個のリング状の椎骨が並んでいます。人体は見事な作りだと思います。手も長い骨は割り入れます。上顎と下顎を拾い最後に頭蓋骨を被せます。
よく、病気の部分の骨は黒ずむなどと言われていますが、職員さんやお医者さんは有り得ないと否定します。色のついたお骨が出てくるのは納棺の時に棺に一緒に納めた副葬品や衣類の染料が溶け出して、焼骨を汚してしまうケースが多いのです。
残っているお骨が極端に少ないこともあります。放射線治療を長期に受診した患者さんや骨粗しょう症の病人は、骨全体が脆くなっていて、火葬場の職員さんもお骨を残す為に火力調整を苦労すると話されます。
ご高齢の仏様でも、理科室の骨格標本のような立派な骨で出てくるのを見ると、うらやましいなと感じます。特に、真っ白で綺麗に揃った「歯」があごの骨についているのを見ると、この人は最後まで美味しく食事ができて、健康で大往生できたのだろうと思いをはせます。
皆さん、綺麗な骨格標本で火葬炉から出てくるように、毎回、歯磨きをして歯を残し、栄養のあるものを食べ、太くて立派な骨を残すように運動をしましょう。