おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

お骨を別にわけて下さい

分骨(ぶんこつ)と呼ぶ骨上げの習慣があります。故人の遺骨を2つ以上の骨壺に納めて持ち帰り、別々の場所で供養することです。「一人の身体の骨を別々にするのは法律に触れるのでは」と不安を持つ人もいますが、分骨は法律違反ではありません。過去には、お墓が無いので母親の遺骨を残された姉妹がそれぞれ半分ずつ持ち帰ったお葬式もありました。


この分骨に反対する人や不安を感じる人も一定数おられます。「一人の骨をあちこちに分けてしまうとご遺体に失礼にあたる」とか「分骨をすると成仏できない」といった声も聞くことがあります。ですがこれは根拠のない迷信です。仏教においても古くから分骨の習慣がありました。お釈迦様のご遺骨もバラバラにされて皆様が持ち帰ったと言われています。各地のお寺に仏舎利塔が建てられたのは、この分骨された遺骨を納めるためでした。佛教宗派の開祖や歴史上の偉人の遺骨も全国各地にお墓があります。沢山の人に供養してもらいたいという思いの現れから生まれた習慣です。決して縁起の悪いことではないのです。


関西から西の地区では本山納骨という風習があります。遺骨の中で魂が宿ると言われる喉仏(のどぼとけ)の骨と主要な骨を取り分けて拾い喉仏だけを仏教宗派の本山へ持参します。第二頸骨の形が仏様の座禅を組んでいるように見える為、喉仏という名前がついています。


別々のお墓に納骨をしなければならないので分骨を選ぶ方もおられます。本家や親戚から新しい仏様は先祖代々のお墓に納骨しなければならないと言われるからです。それとは別に新しく設けた夫婦のお墓にも納骨したいと希望すると、両方で供養するため分骨が必要になります。この場合は火葬場に分骨証明書を発行してもらう必要が出てきます。火葬の前に分骨を決めておく場合は分骨証明書の発行を依頼してください。葬儀屋か職員に必要な枚数を伝えておくと、火葬が終わるまでに証明書を用意してくれます。公営や私営の管理墓地に別々に納骨する際には証明書の提示が必要です。火葬場で貰う埋葬許可書や分骨証明書とは骨壺に入っている遺骨が誰の骨なのかを霊園管理者に証明するための書類です。


故人の遺言により散骨を予定しているけれど、一応先祖のお墓にも納骨をしておきたいと思った喪家様が半分だけを取り分けて残りをお墓用の骨壺に納める方もおられました。又この頃は手元供養のために焼骨の一部を取り分ける方も見受けます。手元供養とは自宅で遺骨を保管する方法です。仏壇やリビングの一角に小さな骨壺を置いて毎日お参りをします。一見すると骨壺に見えない蒔絵の木箱や球体のガラスなどの入れ物もあります。


手元供養の場合は分骨証明書を必要としません。ですが手元の遺骨をお墓に納骨したいと考えた時は問題が起きないよう、念のため分骨証明書を発行しておくことをお勧めします。


「葬儀屋さん、骨上げの時に、皆にわからないように、小さいお骨を持って帰りたいの」


骨上げの時間が迫った時にそっと話しかけてきた女性がいました。お骨になったお婆ちゃんのお葬式で、参列されていたその方だけは再婚した母親の連れ子と聞いていました。今お葬式をあげている喪家様とは、血のつながりが無いので母親の亡き後は疎遠になるのを覚悟していました。故人が居なくなった後はご縁も亡くなり、お墓参りも難しいと考えたようです。ペンダントトップに入れるので胸の骨を少しだけ欲しいと言われました。


「わかりました。火葬場職員さんに話して皆さんが集まる前に小さなお骨を拾いましょう」

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