おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

印鑑が不要になったのに

世の中、キャッシュレスが驚くほどのスピードで進んでいます。スーパーなどのレジでも「クレジットで」「ペイペイで」「スマホタッチで」と声が続き、たまに高齢者が財布からモタモタと現金を出そうとすると、後ろに並んでいる人から、舌打ちが聞こえる有様です。


キャッシュレスと共に進んだのが書類の捺印不要の流れです。履歴書にも印鑑欄が無くなりました。市役所でも「捺印が不要になりました」と窓口に大きく書かれるようになりました。葬儀屋は死亡届と火葬炉の使用申請に毎日市役所に行きます。提出書類に必要だった捺印の作業が廃止に進み始めているのを目の当たりにしています。書類欄から捺印の欄が消えてしまった申請書もあります。いつの間にかデジタル省という役所も作られていて、すごいスピードで捺印不要の手続きが進んでいます。


ところが死亡届だけは「まだ印鑑を持ってきてください」と言われるのです。お葬式をするためにはどうしても必要な提出書類があります。それが火葬許可証です。これが無いと運んで行った棺桶を火葬炉には絶対に入れてくれません。死亡届を提出すると出来る火葬許可書の申請は遺族でもできますが、実質は葬儀屋が代行します。その際、印鑑を預かるのです。


戸籍法施行規則の一部を改正する省令(令和3年法務省令第40号)の施行により、令和3年9月1日から戸籍届書(出生届、婚姻届、離婚届、死亡届)の様式が改正されました。これに伴い届出時の押印が不要になり、届出人の署名だけで届出できる取扱いに変更されました。今は戸籍の書類全てに捺印不要が適応されています。当然死亡届にも遺族の印鑑が不要になったのですが、なぜかまだ葬儀屋が遺族から印鑑を預かる必要があるのです。


理由は窓口で「訂正印が必要な時の為に捨印を欄外に押してください」と言われるのです。捨印(すていん)とはご存じですか?捨印とは、あらかじめ申請書の余白部分に印鑑を押しておき、誤りが見つかったときに「訂正印」として利用できるようにしておくものです。


死亡届は記入された内容に結構訂正の個所が見つかります。一番多く訂正されるのが本籍の記入欄です。ほとんどの方は死亡した人の本籍地を記憶していません。故人と同居していて書類の記入者と故人の本籍地と同じだと知っていても、自分の本籍地を見ないで記入できる方は少ないのです。間違えない様に運転免許書を探し出して見る方もいますが、記載されないようになってから随分経ちます。死亡届の本籍および筆頭者の氏名は戸籍原簿に記載されている書式通りに記入しないと受け付けてくれません。間違いで多くあるのが、本籍地の住所欄に、いつもの住所を書いているようにハイフンなどの記号を使用してしまうことです。本籍地の住所にはハイフンは絶対に使われていません。それ以外にも地名間違いや数字の間違い、戸籍筆頭者の名前違いなど、結構な割合で訂正が必要なのです。


葬儀屋は受け取る時に一応チェックはしますが、漢字の間違いだけは解りません。ご遺族がうろ覚えで記入した本籍地の番地を間違っていたりするのは、けっして珍しいことでは無いのです。これが署名欄には捺印不要になった現在も、葬儀屋が印鑑を預かり申請に行く理由です。


打合せの時に書類に押してもらうこともできますが押し忘れ等のリスクを考えると、預かって戸籍課の窓口へ印鑑を持参した方が安全なのです。印鑑が不要になるのはまだまだ先です。

×

非ログインユーザーとして返信する