おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

おくりびとの映画は嫌い

亡骸を綺麗して、お顔を整え、死に装束を着せる、納棺の儀式を今日も行いました。納棺式を目の前で最初に見る、家族や親戚の皆様から口々に声が漏れてきます。興味津々で見守りながら「おくりびとの映画みたいだね」「映画と同じ事を、やるのかな」 「DVDで観たことがあるよ」 私は心の中で(またか、困るな。映画と比べられても。いつもと同様に務めましょう)と、つぶやきながら、仏様に向い始めます。


映画おくりびとは、2008年の日本映画です。滝田洋二郎が監督を務め、第81回アカデミー賞外国語映画賞および第32回日本アカデミー賞最優秀作品賞などを受賞しました。主人公の本木雅弘が納棺夫日記を読んで感銘を受け、映画化の許可を得たとされています。しかしその後、脚本の内容が、結末の相違とか宗教観などが違うことから、当初は映画化を拒否されています。


あらすじはプロのチェロ奏者の主人公が突然楽団の解散で、夢を諦め田舎へ帰ります。就職先を探して「旅のお手伝い」と書かれた求人広告で見つける仕事が納棺師です。少しずつ仕事に慣れ始めますが、妻に「汚らわしい仕事は辞めて」と懇願されます。迷いつつ仕事を続けながらも、再び妊娠した妻から納棺師を辞めるよう迫られます。そんな中、目の前で知人の納棺をして、心のこもった仕事に感銘した妻の承諾をやっと得ます。その時亡き母宛ての電報が届きます。子供の時に家庭を捨てた父の死を伝える文面です。「今さら父親」と当初は遺体の引き取りすら拒否しようとしますが、社長や同僚は「最後の姿を見てあげて」と説得します。妻の勧めもあり、遺体の安置場所に向かい30年ぶりに対面した父親の納棺を自ら手掛けます。


私はこの映画が嫌いです。おくりびとの名称と納棺師の仕事を取り上げてくれたことには感謝をしています。しかし感激の涙の人間ドラマと持ち上げていますが、私には葬儀の仕事を卑しめて笑いを取り、喜劇に仕上げた映画に思えます。


入社を希望して社長の面接を受けた主人公が仕事の内容を知って、顔をしかめるシーン。業務内容が「旅立ちのお手伝い」であり、強引な社長に押し切られる形で就職したが、妻には「冠婚葬祭関係」としか言えず、結婚式場に就職したものと勘違いされてしまうシーン。出社して最初の現場で、孤独死後二週間経過した腐乱屍体の処理を任され、泣く泣く処理したが自分の身体の腐敗臭に気がつき、銭湯に駆け込み、石鹸の泡を塗立てて汚れを拭い去ろうと四苦八苦しているシーン。近所の人々が納棺の仕事を「卑しい仕事」と囁くシーン。噂で彼の仕事を知った幼馴染から「もっとましな仕事に就け」と白い目で見られ、葬儀の現場で不良学生を更生させようとした列席者が主人公を指差し「この人みたいな仕事して一生償うのか」となじられるシーン。夫が納棺の仕事についている事を知った妻が、ショックから夫の手を振り払い、「汚らわしい、さわらないで」と叫んで家を出て行くシーン。どの場面も何を伝えたいことが理解できないシーンです。


納棺を卑しい仕事と決めつけています。確かに昔は墓堀とか葬儀に携わるのは身分の下層の人間の仕事でした。しかし現在ではサービス業として確立して、若い方も就職します。


葬儀屋から見るとやはりこの映画の内容は極めて偏見に満ちています。この頃映画やテレビでは医者や警察、派遣社員のドラマが評判です。しかし本職の方から見るとやはり納得のいかない場面があるのではと思います。私は、納棺も葬儀も大好きです。理解ある家族に囲まれて幸せです。この仕事に就いたことを、人生の喜びに感じています。葬儀の仕事に携わる方は、決して卑下されることはありません。

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