おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

自殺者の葬儀は苦手です

何故、自殺をするのでしょう? 動物の世界で、自殺をするのは人間だけだと言います。
葬儀の仕事を始めて、驚いたのは、自殺で亡くなる方が多くいるのを知った時でした。
日本では毎年2万人以上が自殺をしています。一日に60人以上が自分で命を絶っているのです。年代別死因では第一位になることもあります。


男女を問わず、自殺の手段でもっとも多いのが、首をロープなどの紐状によって吊る、自死です。自殺の手段には、首つりの他に、薬、ガス、飛び降り、飛び込みなども見てきましたが、どれもきれいな死体にはなりません。


今回、葬送のお手伝いをした仏様も、縊死(首吊り)でした。


現場では、警察の検視の為、ロープから外され、全裸で床に寝かされていました。
当然、括約筋の弛緩により吊り下げられた体内から重力により地面に向けて
体液(糞尿、唾液、涙、血液など)が、流出していました。
首を吊る際の衝撃で頸椎骨折も起こし、頭はグラグラと安定しません。
首には、くっきりとロープの跡がついています。顔はうっ血で黒くなっています。
体をふき清め、紙おむつを履かせて、白装束を着せました。


自ら命を断ってしまった仏様に対して、遺族の悲しみは直ぐには来ません。
最初に来る遺族の気持ちは、困惑、怒り、そして自殺を止めることの出来なかった後悔です。大概の家族は 「なぜ?」 と思うようです。
 
遺書を残していない自殺者は多いですし、遺書が残されていたとしても、どうして
このような手段を選ばなければならなかったのかと、残された人々は悩み続けます。
自殺する人は、真面目すぎて、几帳面すぎて、優しすぎるのです。
他人には理解できない心の葛藤から、自死を選ぶのだと思います。
 
葬儀の打ち合わせをするご家族やご親族は、老衰や病死などの死因で亡くした場合とは、まったく違う対応になります。自殺という通常では理解できない状況に対する怒りが外にではなく、手を差し伸べることができなかった自分自身に向かうのです。
葬儀社と普通に会話をしているように見えるのですが、後で何を話したのか、まったく覚えていないと話す方が多いのです。それでも念を押されるのが死因を隠すことです。
立ち会っていない親族や、ご近所に、固く口止めがなされます。
家族の将来を考えると、死者は普通に亡くなったと思いたいのです。当然、参列者にも死因は隠されますから、葬儀も緊張した雰囲気になります。


どのような死に方をされても、葬儀屋は全力で仏様に向き合います。
しかし本音を言うと、自殺者のお葬式はつらいのです。出棺前に棺桶の周りを家族が囲みます。どなたも声をかけません。蓋を閉じながら、私は心でつぶやきます。


「悩まれたのでしょね。やっと楽になれましたね。お疲れ様でした」

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