おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

外国に無い寝たきり老人

フューネラル

入院中のほとんどの患者が、自力では動けなくなり寝たきりで死去を待つ状態の老人病棟には特有の臭いがあります。入った途端にプーン鼻にきて気づくのはウンチの匂いです。入院している大部分の患者がオムツをつけています。なんとか動ける患者もベッド脇の椅子型ポータブルトイレで排泄します。認知が進むとウンチやオシッコの排泄感覚が解らなくなります。痒くなってオムツに手を突っ込みウンチを、かき出して口に持っていく光景も見られました。病院中に異臭が籠るのも当然です。


認知症の進んでいる高齢者で各部屋のベッドが占められている病室の男性患者は坊主頭、女性の大部分も後ろを短く刈り上げたベリーショートです。最初は不思議に思いましたが理由がすぐにわかりました。患者の髪の毛が長いと職員が手入れするのが大変です。洗いやすいよう全員短髪にしてしまうのです。患者は全員浴衣姿です。オムツ交換と身体を拭くのに一番適した衣類が、すぐ前をはだけることが出来る浴衣なのです。自傷行為防止のため両手首を拘束されている患者もいました。


自力では動けない高齢患者に延命措置が行なわれると必ず身体中に穴が開けられます。喉には気管チューブが入ります。お腹には経管栄養の胃ろうの管が繋がれます。時間が来ると食事をミキサーにかけた様なドロドロの流動食が流し込まれます。消化器が弱ると肩先の血管から静脈栄養のチューブが入るよう穴が開けられます。心臓が弱ると胸を切り開かれペースメーカーが埋め込まれる切開手術がされます。


ヨーロッパの福祉大国であるデンマークやスウェーデンは「寝たきり老人はいない」と福祉関係の本に書かれていました。来日したイギリス、アメリカ、オーストラリアの医師も「自分の国でも寝たきり老人はほとんどいない」と話します。不思議です。日本の医療水準は決して低くありません。むしろ優れているはずです。「なぜ外国には寝たきり老人はいないのか?」の答えは、外国では高齢化や癌などで終末期を迎えたら、口から食べられなくなるのは当たり前で、胃ろうや点滴などの人工栄養で延命を図ることは非倫理的であると、国民全員が認識しているからでした。逆にそのような処置を身体にするのは老人虐待という考え方さえあるそうです。


ですから、日本の様に高齢で口から食べられなくなったからといって、胃ろうは作りませんし点滴もしません。肺炎を起こしても抗生剤の注射もしません。内服投与だけです。つまり、多くの終末期の患者さんは、寝たきりになる前に寿命で亡くなっていました。病院に長期間の寝たきり老人がいないのは当然な結果なのです。


このようなドライな考え方の欧米が良いのか、それともいつまでも死なせない日本の医療行為が良いのかは答えが見つかりません。しかし、関節が固まって寝返りすら打てない状態でジュクジュクの褥瘡が出来た高齢者や、チューブが気管に入って話すことが出来ない患者や、オムツや胃ろうの管を外さないように両手を拘束されている高齢認知症患者を目の前見ると、人間の尊厳について考えるのです。


私は「高齢で終末期になり、口から食べられなくなった時は胃ろうを含む人工栄養などの延命処置は一切希望しない」とエンディングノートに記入しています。枯れるように最期を迎える外国の終末期高齢者が幸せなのか、それとも、無理やり注入される栄養補給で生きながらえる日本人が幸せなのか、自問自答する日々です。

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