おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

葬儀の支払いは現金です

何もかもキャッシュレスの時代になりました。電車に乗る時に切符を購入した記憶はずいぶん前です。コンビニもカードで、スーパーもカードで、自販機もカードです。ところが葬儀費用の支払いだけは、未だに現金だけなのです。特にお寺のお布施をカードで支払ったなどという話は絶対に聞いたことがありません。


葬儀代金が現金支払いなのは、過去に参列者からいただいた香典をそのまま支払いに充てていた経緯からきています。急な出費に周りが援助する香典制度がお葬式を助けてきました。地元の老舗葬儀屋は支払いを一週間から最長一か月程待つことも可能ですが、ネット経由で依頼した葬儀屋は、ほとんどが葬儀終了後の即日現金支払いになっています。なかには葬儀を依頼した際に費用の半額や数十万円を前金として支払わなければ施工に取り掛からないと言い切る悪徳業者もいるようです。


お寺にお渡しするお布施はお葬式の始まる前にお坊様に手渡しの慣習がありますから、数十万の現金を急に用意する必要があります。亡くなった病院から自宅に搬送する業者も、「搬送だけお願いして、お葬式はどの葬儀社にするか改めて考える」と答えると、帰る時に数万円の現金を要求します。


そこで、急なお金を用意するために皆様は銀行に駆け付けるのですが、そこでひと悶着起きるケースが多いのです。すべての銀行が、偽造・盗難カードによる不正な払戻しの被害を抑えるため、1日1口座あたりのキャッシュカードの引き落とし限度額を20万円程に設定しています。ATMの器械の前では高額金額は引き出せないのです。そこで窓口に行き印鑑と通帳で引き出し伝票を書くのですが、その後が大変です。簡単に言うと高齢者は自分の預金から自由にお金を引き出せないのです。


実際にお布施の用意に窓口に行ったお爺ちゃんは、まず対面した銀行員から身分証証明書の提示を求められました。そしてお金の使い道を、根掘り葉掘り聞かます。家族葬なので広めたくないとの懸念からお爺ちゃんは「急に必要になったから」と答えをぼかしたため、次々と銀行員が変わり、気が付いたら後ろに警察官が二人来ていて、衆人環視の中での取り調べを受けたのです。まずお寺に確認の電話を入れられて、その後家族に電話されて、住所、氏名、生年月日、携帯番号まで確かめられます。結局お金を引き出すまでに2時間程かかりました。打合せの時にお爺ちゃんのご立腹がとても良く解かりました。「必要があって自分のお金をおろすのに、犯罪者扱いをするあの銀行とは、もう縁を切る」これが高額引き出しの現実です。


お布施や葬儀代金を引き出すときの銀行でのトラブルを最小限に防ぐためには、証明書類を出来るだけ用意して銀行員を納得させることが必要です。葬儀屋が渡してくれた見積書とか、作成した会葬礼状の見本とか、死亡診断書のコピーなどです。


オレオレ詐欺に対する水際防止対策を強化するという警察の指導方針もあり、こまめに銀行員が声かけをするということは知っていましたが、まさか直ぐに警察官まで呼ぶことになっているとは、怒り心頭のお爺ちゃんのお話を伺い仰天しました。


高額な費用をすぐに工面するのは大変だと葬儀社も理解しています。良心的な葬儀屋では、後日の銀行振り込みやクレジット払い、そしてローンも可能にしています。

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