無宗教ですが焼香します
お葬式のスタイルが格段に変わりつつあります。一切の儀式事を行なわないで冷蔵庫から火葬炉へ一直線に向かう「直葬」又は呼び方を変えた「火葬式」と言われる簡素な内容のお葬式や、お通夜を行わない「一日葬」とか、火葬炉前の読経だけの「半日葬」などです。
皆様にお葬式のイメージを伺うと、まず思い浮かぶのは、黒い喪服の参列者、遺影を飾った祭壇、袈裟を召したお坊さんの読経、そしてお焼香の列です。しかし、この頃多くなってきた要望が「お坊さんは呼ばない」という無宗教のお葬式の形です。お寺様はいらないと言い切る理由の多くが「仏教を信じていない、宗教の信仰心が無い」などです。
直葬や火葬式との名が付くお葬式は、初めから仏教儀式を省きましたが、これまでの大部分の家族葬ではお寺は呼んで、読経の中でお通夜から告別式と言う流れでした。ですが、近頃は「読経は必要ない、宗教儀式は必要ないです」と最初に言われるようになりました。極端なお寺離れが進んだのは、お布施と言う訳の分からない価格設定とか、戒名料と言う理不尽な高額の請求に不信感を持つ人が増え、仏教を含む宗教離れが起きたと思われます。
ところが打合せの中身を確認していくとこのような事が多くなりました。
「お寺様を呼ばないお葬式をご希望ですね。飾り付けや流れはどういたしましょう」
「祭壇を必ず作ってください。そしてお焼香を全員がします」
仏教は一切信じないと言い切った喪主様が、胸を張ってリクエストをされます。ここで矛盾が起きてきます。宗教儀式は必要ないと言いながら仏教の儀式の進行を求めるのです。葬儀屋の本音としては「おいおい、それは可笑しいだろう」と言いかねないのですが、当然、何も言わず黙って「かしこまりました。準備をします」と答えます。
「お寺やお坊さんは不信感しかない」ここまで言い切る喪主様が、祭壇に向かい手を合わせ、ご焼香をなさいます。そこには一片の疑問も出てきません。焼香の儀式は仏式の作法の一つです。儀式と作法を頭から否定されるのに、線香、ローソク、香炉、抹香を用意して欲しいと言われます。
理屈をこねるなら可笑しいとと言う人も出てくるのでしょうが、私はこれがこれからのお葬式の形になるだろうと考えます。お葬式で故人を送り出す方法は、送る方の考え方一つです。何もしない直葬で良いと考える人もいれば、お坊様を呼んでお金をかけたお葬式をしてあげたいと思う人もいます。お坊さんの読経はいらないけれど棺桶に向かって焼香をして、無事の旅立ちと今までの感謝を伝えたいと思う、故人想いの喪主様なのです。お寺と宗教儀式は必要ないと言いきる喪主様が、参列者のご焼香は大事にしたいと言い張ります。焼香でお葬式の想い出を残そうという気持ち表れだと感じます。
葬儀屋の間では無宗教でも焼香儀式を行うお葬式の形を「自由葬」と言う呼び方で区別しています。日本人は宗教心には無頓着な国民と言われています。結婚式は教会で行い、安産祈願は神社で祈祷し、大晦日は除夜の鐘、お正月は初詣、2月はバレンタイン、春と秋のお彼岸にはお寺でお墓参り、年末はハロウィンとクリスマス、そしてお葬式は仏式です。
お葬式の内容を自分なりにカスタマイズしていく自由葬という方法は主流になるはずです。