おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

病院ではこのように死ぬ

終末期の高齢者が多く入院する病院があります。毎日のように、患者さんが亡くなります。当然、病院のスッタフは葬儀屋と顔見知りになります。


「患者さんが「ステる」ときは周りに誰もいない時が多いのよ」看護師さんが話し始めました。「ステる」の原語はドイツ語のSTERBEN⇒死亡、死亡した、の意味からきています。病院内では死亡という言葉を回診などの公の場で使うのを避けています。他の患者さんに解からないように暗号で言うのです。患者が亡くなったことは「あの人は昨日、ステった」と医師と看護師は言います。


「もう長くない患者さんは、私達が忙しい時間を避けて亡くなってくれるとしか思えないことがあるのよ。食事の時間や朝の排泄ケアが重なる忙しい時間帯に亡くなる方はほとんどいないの。「絶対避けてくれたよね」と思う。入院が長期ならば自然と看護師の動きもわかっているはずだから。そして患者さんにも、好きな看護師と苦手な看護師がいるのよ。夜勤で患者さん一人ひとりに声をかけていくと、「あ、今日はあなたが夜勤なの。よかった」と言ってもらえることもあるのよ。「よかった」と言ってもらえればうれしいです。「この患者さんは、あの看護師さんが好きだから、亡くなるなら絶対にこの人が夜勤のときだと思う」と話すときもある」


看護師さんは入院患者が数日で亡くなることがわかるそうです。もちろん急変もありますが、巡回時に意識レベルの状態とか、呼吸状態(胸郭の上下運動・鼻息の有無、呼吸様式、呼吸間隔他)を見て、脈拍(橈骨動脈、拍動の確認等)の容態観察でこの人はまもなく亡くなると判断するのです。


モニターのバイタルサイン測定値の低下と意識反応が少なくなってくると危篤と判断し家族に連絡を始めます。その後、脈拍の緊張が弱くなり、血圧が低下し始め、四肢が冷感して、冷汗が出現し、顔面にチアノーゼが出現します。唾液や分泌物が咽頭に貯留し呼気時にゴロ音が出現し、口が開く下顎呼吸が始まると、間もなく臨終です。


「家族が臨終に間に合うことはほとんど無いのよ。私たちが、気を付けていても、ちょっと目を離したすきに、呼吸が止まる患者さんは多い。まるで、周りに、誰もいない一人のときを狙って、死んでいくように思える」
深夜に亡くなる患者が多いのは、どうも潮の満ち引きに関係すると言われています。昔から人が生まれるのは満潮の時で、死ぬ時間は引き潮の時なのです。


夜中は主治医、担当医が不在です。臨終のベッドに呼ばれるのはアルバイトの若い当直医です。寝ぐせ頭にサンダル履きでバタバタと部屋に入ってきて、そそくさと死亡診断だけ済ませて、すぐに当直室へ帰っていき仮眠の続きです。


せめて「穏やかなお顔ですね」「よく頑張りましたね」と話しかけ、そこに家族が間に合ったときは「ご家族もよく頑張りましたね」などと言ってほしいと看護師さん達は思うそうです。


高齢で終末期の貴方が病院で死ぬときに、頼りになるのは看護師さんだけです。

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