おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

本音が出てきた喪主挨拶

フューネラル

喪主挨拶はお通夜や告別式において喪主様が、ご会葬の皆様に対して行うご挨拶です。参列の各人へ御礼の気持ちを伝え、故人の生前のご厚意への感謝を述べます。お通夜の席では、ご住職による読経と焼香が一通り済んだ後に喪主挨拶を行います。お坊様が退席し通夜振る舞いに移る前が喪主挨拶のタイミングです。告別式では、読経や焼香が済み、お別れの儀式が終わり火葬場に出発する前に、会葬者全員に向けて挨拶を行います。わざわざお葬式のために来てくれた参列者に対して、故人とのエピソードなども入れつつ、自分の言葉で感謝の気持ちを述べてください。じょうずに話せる自信が無い場合は定型文のメモを見ながらでも構いません。精進落としの席では、会食の始まりと終わりに喪主が簡単な挨拶を行います。参加者に対して葬儀を無事終えられた感謝と参列をねぎらいます。挨拶の長さはおよそ3分以内が適切です。伝えたい思いがあったとしても長々と話すことは避けましょう。


長年連れ添われた奥様を亡くしたご主人様が、慣れない挨拶を喪主として一生懸命に行いました。最後にこぼれた妻への本音はユーモアと愛にあふれた一言でした。倒れた奥様を在宅で看取ったご主人でした。町内会長も勤めた地域でも顔の広い、有名人でした。会合では弁もたちユーモアも交えて話す方だと言われていました。


「妻が亡くなった。よろしく頼む」と連絡が入りました。奥様の為にまだ一般的でなかった在宅緩和ケアを選び、病院と連携しながら最後まで自宅で看取りました。慣れない介護の生活では、初めての取り組みに戸惑いもあり、思い通りにいかないことも多かったようです。「こんな介護はなかなかうまくいかないよな」「もう少し上手に出来ないかな、難しいな」と日々悩みながらの努力の毎日でした。この言葉の奥には上手くいかない自身への怒りにも似た悔しさがにじんでいたようです。それでも「娘に『怒っちゃダメだよ』などと言われちゃってさ」と笑う姿には家族に支えられながら弱っていく奥様と真摯に向き合った日々の重みが感じられました。


喪主として挨拶に立ちました。話し上手な方だったので、てっきり自分の言葉で語るのだろうと思っていたところ、葬儀屋が用意した一般的な挨拶文の用紙を手に取り、読み上げ始めました。少し意外に感じつつ耳を傾けていると、その定型文の最後に差し掛かった時に文中の注意書きの「この挨拶文は通夜の後に行います。ゆっくり丁寧に読み上げます」までそのまま読み進めました。気がつき「あ、これ読まなくていいやつだった」と照れくさそうに言うと、会場は笑いに包まれました。


そしてその直後、祭壇の奥様の遺影写真を見つめながらこう語りかけました。


「こんなバカなことばっかりしてきた俺を、ずっと支えてくれてありがとう。俺も間もなく行くから、あちらで待っていてくれよ。又、会おうな」


挨拶の最期に語り掛けた、その一言が全員の心に深く静かに沁みました。立派なスピーチではないけれども、まっすぐでその人らしい言葉でした。その場にいた誰もが、思わず胸を熱くした瞬間でした。

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