ナレーションで作る場内
お葬式に参列したことがある方は静まりかえったホールに流れるナレーションを聞いた記憶があると思います。お通夜や告別式の開式前に司会者から弔問の皆様に故人様を思い出す文面を語りかけます。弔問に来られた皆様の意識を、これから始まるイベントに気持ちを集中させるための目的がナレーションにはあります。
心を打つナレーションの作成には、打ち合わせの中でうかがった故人の人柄や仕事、趣味などのライフワーク、そして家族と一緒に過ごした思い出の時間や、残されたご遺族の想いを言葉に作りながら台本を練っていきます。お話を進めていくと、例えば数人いるお子さま方のうち1人は知っていたけどほかのご兄弟は知らなかった想い出とか、お孫さんだけが知るお話しなど、そして知ってはいたけどすっかり忘れていた記憶などの場面に出会います。「何も知らない第三者」である司会者と話すことで家族が知らなかったとか、忘れていた故人との思い出を共有するのです。「思い出が次々と出てきた」「気持ちを落ちつける事ができた」「死去を実感して涙が止まらなかった」「あらためて感謝の気持ちが生まれた」などが聞こえてきます。
開式前に司会者からナレーションを行うのは、参列者の皆様に今から始まるお葬式に集中してもらいたいと考えるからです。故人としっかり向き合う時間が持てれば記憶に残るお葬式が行なえます。お葬式での例えとしては不向きかもしれませんが、テレビの公開番組とか演芸会場では前座と言う役割の人が会場を温めて高揚感を作りその後の本番が始まります。大人数が集まる会場ではこの雰囲気作りは大事なのです。開式前にナレーションを読むことで皆様の思いを統一し、その後、豪華な袈裟を召したお坊さんの登場になります。渋い声で仏の世界に通じる御経を読み挙げる事でお葬式の世界観に弔問客全員が入り込むことが出来るのです。
棺桶に入った故人は現実社会からいなくなった人です。その人を仏様の世界という科学的に説明のつかない場所に送り出すイベントがお葬式です。そのためには送り出す皆様の気持ちの集中がどうしても必要になります。葬儀会館と言う不慣れな場所では皆様の身体が緊張します。そうなると気持ちを集中させることができません。そこで司会者のナレーションでリラックスして故人に意識を向けてもらうのです。
ナレーションの上手な司会者が始めるお葬式は、とても進行がスムーズにいきます。たぶん参列者の気持ちが緊張からのリラックス効果で盛り上がるからです。ナレーションから続くお坊さんの一連の作法の中にも、緊張と緩和がちりばめられています。このくり返しが弔問の皆様の意識を統一して思い入れを強めてくれるのです。
小規模なお葬式なのでナレーションや司会のアナウンスは必要ないと言われる事が多くなりました。しかし司会者に人生や人柄を紹介してもらう機会はメディアで活躍する有名人ならともかく、普通の人生の方ではあり得ません。おそらくプロが発表する場面は結婚披露宴とお葬式だけなのです。なによりもナレーションの効果は全員が泣いてくれます。お涙頂戴的な演出でなくとも皆様の涙が出るのです。
堂々と人前で泣いても恥ずかしくないのはお葬式だけです。自分のお葬式を司会者の「素敵なナレーションの語り掛け」で参列者全員を泣かせて旅立つ式にしませんか。