おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

上手に使えない骨上げ箸

火葬炉の扉がゆっくりと開きます。待合室に連絡が入り集まったご遺族の皆様が凝視するなかで静かに白骨が姿をあらわします。炉からお骨が出てくる瞬間は、全員に一瞬緊張が走ります。もし黒焦げ半生の死体が出てきたらどうしようと思うようですが、ホラー映画ではないのでご安心ください。火葬場の職員さんは、絶えず小窓から覗いて、とても注意をしながら綺麗な白骨の状態に焼き上げてくれています。


お葬式には多くの伝統や慣習があります。その中で「箸渡し」という儀式があります。火葬された後に残った故人の焼骨を2人が一緒に箸を使って持ち上げ、骨壺に入れる風習です。現世とあの世の間を流れる「三途の川」を安全に渡るための「橋渡し」を助ける行為と、箸を使う行為が同じ読み方であることから名付けられました。故人が無事にあの世へ旅立てるように家族と親族が助ける意味も含んでいます。


三途の川の名は三つの渡り方からきています。流れが緩やかな浅瀬と激流が流れる深瀬があり、現世で罪が軽い方は浅い川を歩いて渡り、罪の重い方は身体を岩に打ち付け激痛に苦しみながら渡ります。現世での無実を証明できた方は金銀七宝で豪華に飾られた橋を渡ることが出来るのです。亡くなった人に「この橋を渡らせたい」と家族が願うことから箸渡しの風習が始まったと言われます。


お骨の拾い方には一つのお骨をペアとなっている2人同時に箸で拾い上げるという方法とか、1人が拾い上げたお骨をもう1人に箸から箸へと受け渡す方法などがあります。骨拾いに使う対の箸の材質が各々違っているのに気が付きましたか?わずかに長さの異なるものが組み合わされていたり、竹製の1本と木製の1本とでセットとなっていたりと、通常の箸とは違う造りとなっている場合が多く見られます。これは、繰り返してほしくない葬儀全般に見られる「あえて日常では行わないことをしてみる」という考え方に基づいています。


皆様が収骨をする前に、最初に火葬場職員さんが探して大事に拾うのが魂の残る大事なお骨と説明される「のどぼとけ」といわれるお骨です。我々が呼んでいる実際の喉仏は軟骨ですので燃えてしまいます。探し出された、燃え残っている小さなお骨は第二頸椎です。この骨の突起や曲線の感じが、仏様が座禅をしている姿によく似ています。その形状がありがたがられてこの骨を大切に拾い上げるという風習が生まれました。


近頃、収骨に移り、お箸を渡されても、なかなか上手に使えない若者が増えてきているのに気がつきました。うまくお骨をつかめなくてポロポロと台の上に落としてしまうのです。しっかりと箸で物をつかむ動作が出来ないのです。そしてお箸の持ち方も少し変な若者が多いのです。中には箸全体を握るようなつかみ方もいました。


火葬場の職員さんも気がついているようで、あまり時間がかかるご家族場合は、早めに熊手と塵取りを出して残りの焼骨をかき集めるようになりました。これからもお箸の使い方が下手な人が増えるように思います。うまくお箸が使えなくて、骨上げ箸の作法が出来なくなると橋渡しの意味は無くなりそうです。
ちなみに和食マナーでは、食事中に同じものを二人が箸でつかむことは避けるべき行動とされています。

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