棺桶が二つ並んだお葬式
葬儀屋は長年連れ添った配偶者との永遠の別れを、毎日のように目の当たりにします。一人残された者には深い悲しみや苦悩そして安堵など、夫婦の数だけ異なる別れがあります。夫婦とは他人同士の女と男が、なぜか一緒になり「妻」と「夫」という名前に変わります。そして相手を見送る立場になるのです。最期までお互いを愛して来世でも一緒に暮らしたいと願う夫婦は、なかなか見られないのが現実です。
先日、夫婦の別れについてのブログを綴りました。その中に「お互い辛い思いはしたくない、二人で同時に死にたい」との答えもありました。ですがこれは災害死、事故死、事件死になるのでお勧めしません。大方の夫の願いは、自分が先に旅立つか、妻の後を追いかけるように亡くなる事です。「結婚式で二人が並ぶならば、葬式も棺桶が並んでも良いのに」と祭壇前でつぶやいた、妻を送る夫がいました。
夫婦の棺桶が祭壇前に並ぶことは、災害か事故でないと起きません。しかし過去に一度だけ自然死のご夫婦が一緒に旅立ったお葬式をお手伝いしたことがあります。
旅立つ高齢の母親を送る通夜の席が始まろうとしていました。突然、喪主をつとめている息子さんが、私に相談があると囁いてきました。
「実は、さっき父が入院している病院から連絡があって、今夜が峠だというのだ」
ということは、もしかして峠を越えられないとすると、葬儀が続いて出ることになります。今夜の母親の通夜式、明日の母親の葬儀式、その夜の父親の通夜式、明後日の父親の葬儀式、こんなことになったら大変です。通夜式のお寺様の読経が始まろうとした時に、喪主様の携帯が鳴りました。
「そうですか、わかりました。すぐ行きます」
親族や参列者が揃っている前で、喪主様がマイクを取りました。
「今、父も亡くなりました。皆様には母の通夜をお願いして、私は席を外し迎えに行きたいのですが、ご了承いただけますか」
会場が一瞬どよめきましたが、すぐに皆様は了承しました。通夜式が終わろうとしている時に、喪主様は父親のご遺体とともに、母親の通夜式に戻りました。
私は、明日のご葬儀はお二人の式にする案を提案しました。喪主様の体力の心配もありましたが、なによりも葬儀費用の負担をこれ以上かけて欲しくなかったのです。
翌日、式場の祭壇には二つ並んだ遺影写真が飾られました。手前には二つの棺桶が並びました。夫婦には必ず別れが来ます。そしてどちらかが相手のお葬式を行わなければならないのが宿命です。
このご夫婦は違いました。
喪主、家族、ご親族、そして参列者の全員が、口をそろえて言いました。
「うらやましい。これは幸せなことですね」
「夫婦の鏡だね。絆の強い結びつきだね」
「私の葬式も出来るなら、こう願いたいね」