おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

感情が見えない人が多い

日本では約15人に一人がうつ病になると言われており、身近な病気になっています。うつ病を発症する人の多くは、感情を表わす事が無くなり病状が進むようです。この頃のお葬式で気になることがあります。強い悲しみを身体中から表現し、声をあげて泣く家族をほとんど見なくなったのです。昔から日本人のお葬式は厳粛な雰囲気の中、静かに故人を偲び、悲しみに浸ると言われ、あまり泣き叫ぶ方はいませんでした。それでも家族の中には大声で泣き、周りもつられて涙を流すお葬式も珍しくはありませんでした。それが最近は家族でも泣く方がほとんどおりません。まして参列者の涙を見かける場面も極端に減ってきています。いつの間にか日本人は泣かなくなってしまいました。もしかしたら、うつ病が増えたのも原因でしょうか?


涙活という言葉があるようです。日々のストレス解消のために、悲しみの感情を高め、涙腺を緩めて涙を流す行動を促す活動だそうです。思いっきり涙を流すことで心身がリラックスし、泣いた後はすっきりとした晴れやかな気分になるようです。大人になると涙を流す機会はほとんど無くなります。これでは日々ストレスが溜まり続けて、最後には精神に不調をきたすのです。


お葬式の時に涙が出なかったと後悔する方もおられます。初めて家族を亡くす経験ですから、当然身体中が緊張し交感神経が目いっぱいに働いています。これでは涙は出ません。涙は自律神経の副交感神経が優位になると涙腺が刺激されて出てきます。逆に交感神経が働いていると涙は出ません。心身をリラックスさせて副交感神経を働かせると涙腺が広がり涙があふれるのです。


参列者が帰ったお通夜の夜に、喪主が祭壇前で静かに泣く姿も見ます。お葬式で活発化していた交感神経から、悲しみの感情で副交感神経に切り替わると、心身の緊張がほぐれ涙が出るのです。グリーフケアの面からも充分に涙を流すことは悲しみの心を整えるのに役立つとされています。


身近な人との別れを受け止め、その悲しみから立ち直るためには大きな声で泣きましょう。涙をたくさん流すことはお葬式のストレスから身体を守る必要な行為なのです。家族を亡くした後に精神を病む方は、涙を流すことが出来なかったという報告もあります。


お葬式会場で遺族はしっかり振る舞うのが日本人の美徳とされています。悲しみに耐えて、気丈に振る舞う日本人特有の美学を否定するつもりはありません。しかし大切な人の死に心が壊れそうになりながらも、じっと泣くのを耐える遺族を見かけたら、


「我慢せずに泣いて良いのですよ」


と優しく声をかけてあげてください。そして深い悲しみに耐えきれず、人目もはばからずに泣き崩れている遺族がいたら温かい目で見守って欲しいと思います。


皆様、もっとお葬式で泣きませんか?そして日々の生活でも、もっともっと涙を流しませんか?

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