おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

前の人の真似をする焼香

仏式のお葬式には必ずご焼香が行われます。焼香には線香に火をつけて香炉に立てるやり方と、このブログのプロフィール画像に使われている香炉の上の炭に、抹香をくべて煙をあげる方法があります。どちらもその香気によって仏前を清める為に行います。抹香の香りで故人の魂を静め、立ち上る煙で極楽への道標を示し、迷わず往生させる意味もあります。


焼香の作法はお釈迦様在世中からありました。日本では仏教伝来と共に焼香の習慣が取り入れられました。昔は自分で沈香や梅檀香を粉末にして調合した抹香を持ってきて、焼香したそうです。「お焼香」と言う方が多いですが、正しくは「ご焼香」と呼びます。


ご焼香は宗派によって仕方や回数が異なります。正式には天台宗と真言宗と浄土宗は3回、日蓮宗と禅宗は2回、浄土真宗は1回になります。良く言われるのが、仏、法、僧の三宝(さんぽう)を敬い、内にある三毒(怒り、迷い、貪欲)の心を清めるために3回の焼香を行なう方法が正式だと信じる人が多いですが、この考え方は真言宗の空海の教えからきています。


葬儀会館では立礼焼香が一番多い方法です。順番が来たら焼香台の少し手前で遺族と僧侶に一礼します。焼香台の前に進み遺影を仰いで一礼合掌した後に、数珠を左手にかけ、右手の親指、人差し指、中指の3本で抹香をつまみます。右目の高さまでささげます。この時に手のひらは返さないことが大事です。動かすとこぼれます。抹香を香炉の中へ静かに落とし、再び遺影に合掌一礼をし、向きを変えずに少し下がり、遺族に一礼して戻ります。


葬儀屋にはお坊様の読経が終わると同時に、参列者のご焼香を終わらせると、スムーズに進行するテクニックがあります。早く終わっても間が開きますし、読経が終わっても延々と参列者の焼香をする列が途切れないと、火葬場に出発できません。参列者の列を見ていると、不思議なことに、ほとんどの方のご焼香は、前の方と同じ形の方法をとるのです。


ですから家族葬で焼香の人数が少ない時は、始める方に「ゆっくり3回のご焼香をどうぞ」と促します。参列者が多くいて時間がかかりそうだと判断した時は、ご焼香列に並んでいる最初の方に「恐れ入りますが、1回のご焼香でお願いいたします」と声をかけます。この声掛けを忘れて、一番初めの人が3回のご焼香を行うと、その後に続く、すべての人が3回行います。その結果、全員の焼香にとんでもない時間がかかるトラブルがおきます。


焼香の回数は、前の人のやり方を見て同じように真似をする参列者がほとんどなのです。


お寺の法事などで本堂の和室で行われる焼香は座ったままの座礼焼香が多いのですが、この時は、立ち上がらず霊前に向いたまま、焼香台まで膝行(しっこう)で移動します。膝行、膝退とは手を軽く膝わきにつけて上半身をかがめ、座ったままの姿勢で、かかとを少し上げてつま先立ちで進みます。移動に時間がかかるので、この頃は 回し焼香盆のやり方が多くなりました。読経中に香と香炉が1つになったものが、お盆に乗せられて回ってきますから抹香をくべ、焼香が済んだら祭壇の遺影に合掌し、次の人にお盆を回してください。


焼香の回数に迷ったら前の人の真似をしてください。葬儀屋が困る参列者がいます。大人数の焼香列の途中から、自分勝手に3回焼香が本式だと考え、実行する厄介な方です。


ご焼香で一番大切なのは回数より心を込めて合掌することだと思います。

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