おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

貴方は副葬品に何を選ぶ

納棺式を始めます。枕元に入れて欲しい品々がずらりと並べてあります。「困ったな」と心の中でつぶやきます。ご遺体を棺桶に収める納棺時に、一緒に入れる品を副葬品といいます。打合せの時に市役所からの「火葬時のおける副葬品の禁止事項」の紙を参考に渡してありますがほとんどの方は気にしません。亡くなった家族にあれもこれも持たせて極楽に送りたいとの気持ちは良く解かります。ですが、仏様が持っていく品々には制限があるのです。


どうせすべて燃えるから良いじゃないかとお思いでしょうが、棺の中のよけいな副葬品は火葬炉を傷めます。そしてこの頃よく言われる環境保護に悪い排煙の原因になります。燃え残る灰の量も多くなり収骨が困難です。何よりも火葬時間の延長になるのが困るのです。


「仕事が生きがいだったから、極楽でも着て欲しい」とスーツが何着も出ています。革靴もセットです。「極楽で着替えるものがないと困るでしょう」と長襦袢、着物、帯が出ています。最期まで使っていた枕や毛布、ベッドにおいていた人形やヌイグルミも出てきます。混紡の洋服や靴革は燃えにくく、さらに燃やしたときに有害なガスが出ます。洋服のファスナーやボタンも燃え残ります。
メガネ、腕時計、指輪などいつも身につけていたものならば、一緒に入れたいと思うのでしょうが、燃え残ると遺骨を汚す原因になります。ガラスや金属類とプラスチック品の不燃物は、原則入れてはいけません。


書籍類も紙灰がそのままの形で残りますので斎場は嫌がります。「囲碁が趣味でした」と厚い碁の棋譜書を出されます。「最期まで気に入って見ていました」と動物図鑑や海外の写真集を出されます。「これだけは、入れないと極楽往生が出来ない」と言われ御経本や、写経した般若信教の半紙を数百枚出されたこともあります。アルバムや写真も困ります。故人と一緒に写っている写真が納棺されると、その人もあの世に連れて行かれるという説もあります。千羽鶴や朱印帳はそのままの白い灰で燃え残り、お骨を隠します。高齢の方でお金を出す方もおられますが、紙幣を燃やすことは法律で禁止されています。


食料品も禁制品の副葬品になります。水分が多く燃えにくく火葬時間の延長に繋がります。「最後に飲ませてやりたい」と大吟醸酒の一升瓶が出てきたり「闘病中は食べられなかったから、これだけは持たせて」と懇願されご飯とお肉やお魚が出されたり「お菓子が無いと極楽まで口寂しいから」と言われ山ほどの袋菓子が出てきたり「死ぬ間際に食べたいと言っていた」と言われメロン、リンゴ、バナナ、パイナップルなど、まるで果物屋さんが開けるほどのフルーツを出されたこともありました。食料品は水分が多く、大きいものは燃焼の妨げになるため禁止されているのです。


納棺を行うおくりびとにとって、喪家様に「せっかく用意した副葬品を入れられません」と伝えるのは大変難しい対応になります。 出来るだけすべて納めたいのですが、斎場の指導は衣類、寝具は最小限に、それ以外は止めてくださいとの指示が出ています。


納棺中に、どれを入れて、どれを諦めさせるかが、葬儀屋の腕前です。
衣類は、「極楽では必要ないです。形見で使うのも供養ですよ」と伝え
書籍は、「好きなページだけ、切り取って入れましょう」と伝え
飲料は、「少量を袋に入れて、お口の傍に置きましょう」と伝え
食料は、「一切れを、半紙に包み、お弁当で持たせましょう」と言い逃れます。

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