おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

家族葬のデメリットは何

ご葬儀の打ち合わせを始めると、ほとんどの方が「家族葬で行いたい」と言われます。家族葬という言葉は葬儀屋が考え出しました。高齢化で60代の息子が80代の親を送るようになりました。もちろん会社関係は縁が切れています。ご近所の付き合いもありません。親の兄弟も死に絶えている。「参列はご家族だけの少人数の葬儀になりますね」と葬儀屋が言ったことが家族葬の始まりです。このスタイルは前には「密葬」と言っていました。秘密に家族だけで行うという葬儀です。家族で見送った密葬の場合は、そのあとで必ずお別れ会とか偲ぶ会が行われます。芸能人や会社の役員さんはこのスタイルが多いです。家族のみの葬儀の後に、お別れ会や偲ぶ会をすることによって、死亡の連絡を皆様に知らせるのです。


今の家族葬はこの知らせるという行為をなくしてしまいました。家族のみで行う場合には、まず親戚に内緒で執り行います。いくら故人の兄弟が死に絶えていても、いとこ鳩子は生きていますし、兄弟の奥さん方も存命です。後日、何らかの形で知れて必ず「なぜ骨になる前に一目会わせなかったか、この親不孝者」と責められます。
ご近所に内緒にしようと思えば、自宅に帰らず葬儀会館の冷蔵庫に直行です。しかしこれも後日、町内に知れて「お世話になったのに、お別れをしたかったわ。自宅にも帰れなかったなんて、なんてかわいそうな仕打ちなの」と当分非難されます。葬儀後、ご近所が知ると、入れ代わり立ち代わりお線香を挙げに弔問に来る、煩わしさも出てきます。


人の死と言うのは他人を感情的にさせます。亡くなったのを知らせてくれなかったと悟る感情は結構根深いものです。家族葬の後、親戚づきあいやご近所づきあいに壁が出来たと話される方も多いのです。家族葬を決める遺族の意向はなかなか受け入れられにくいのです。よく弁解の言葉に「故人が家族葬にしてほしい」と言ったからと聞きます。本当に故人が望んだのかを今一度思い出してみてください。亡くなった本人はお世話になった親戚や、ご近所のお付き合いの方々、そして友人たちに、旅立つ前に会いたいと思っていたのかもしれません。お葬式とは故人の遺志が一番に尊重される儀式だと私は思います。


参列者がいないのはイコール料金が安いと誤解する方も多く、葬儀屋もそこに漬け込み「家族葬はお得ですよ」と言う風潮が生まれました。たしかに参列者がいないなら、料理も御礼品も会場セットもいりません。しかしお坊さんを呼んで、しっかり儀式は行いますから、それなりの費用は掛かります。とくに祭壇を飾るお花は、親族に知らせず、親族供花を出せない場合は、家族に祭壇花の費用負担が多くかかります。


家族のみで行う家族葬はまだまだ理解されていない地域もあります。お葬式の大きな目的は、故人が亡くなったことを周知させて、今までのお付き合いに御礼を伝え、感謝し、残された家族にも、これからも変わらないお付き合いをお願いする機会なのです。


最初は家族葬で行うと言いながら、打合せを進めていくと最終的には、親戚を呼び始め、ご近所、ご友人、介護でお世話になった方々などが参列する、通常の葬儀スタイルになることも多いのです。


家族葬のデメリットは伝えない人々への理解を得られないことが主な原因になっています。家族のみの葬儀を執り行った場合には、故人の生前のつながりを大事にしてください。葬儀後にお世話になった方々へ、きちんと訃報を連絡することが、なによりも大事なのです。

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