おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

安い葬儀には落とし穴が

葬儀屋にかかってくる電話には、当然「亡くなったのでお葬式の申し込みを」と言う連絡の他に葬儀の相談の電話も連日多くかかります。まだ亡くなってはいないが、準備をしておきたいなどの内容には丁寧にお答えしますが、この頃多くなってきたのが、開口一番に「全部でいくらならできる」と尋ねる方がとても増えてきています。


一概には言えませんが、お金に困っての金額の相談ではなくて「葬儀にお金をかけたくない」との考えから、安易に総額費用を聞かれる方が多いように思います。特にネットで宣伝する大手業者の最低価格をそのまま信じこみ、あれで葬儀費用の全額だと思いこむ方も多いのです。


葬儀の価格には葬儀屋に支払う施工費用のほかに、通夜の夜伽と仕上げ膳の食事費用、飲み物費用、飲食施設料、会葬者への供養品費用、供花や供物の費用、霊柩車やタクシーマイクロバスの車両費用と多岐に渡り、その合計が概算費用になります。当然飲食費用などは終了するまでは総額が出ないのであくまでも概算になります。


そして、忘れてはいけないのが、お寺のお布施も結構な金額になります。特に宗派の違い、お坊様の人数、院号の付いた立派な戒名等で、葬儀費用よりも高価になることもあります。


ですから簡単に葬儀にかかる費用総額を伝えることは、非常に難しく答えにくい質問です。大手斡旋業者や一部の葬儀屋は、内容も決まらないうちから適当な金額を言う所も有るようですが、そちらはよっぽどいい加減な業者か、請求書を貰ってビックリのパターンでしょう。私は無責任な返事はしないようにしていますので、まず初めに「どのようなお葬式をお望みですか」と聞くことにしています。すると簡単に「安い程いい」と返ってくるときは、市役所が生活保護世帯に支給する「お骨にするだけの葬儀は20万程で可能ですが」と答えるようになりました。


価格の安い葬儀を宣伝する業者には共通する項目があります。それは「納棺はスタッフだけで対応します」という一文です。私も「価格を抑えるならお葬式の流れのどこを削りますか」と質問されたら納棺の儀式と答えるでしょう。納棺は、家族が集まり全員が興味津々で見守り手伝う場面です。ご遺体を綺麗にして棺に納める厳粛な時間です。この時間を、家族が見ていない時に行うなら、お葬式の質を左右する仏具の原価は最低の物を使うことが出来ます。技術を有するスタッフの質とサービスの内容も、喪家様の目がその場に無いのならどんなこともできます。喪家様のいない時を選び、スタッフだけで適当に棺に納めようとする価格の安い葬儀には疑問を持ちます。


私が一番大事にする時間が、家族と一緒に行う納棺の場面です。形ある故人の身体に対面し、触れてお別れを伝え、お化粧や御着替えを手伝います。過去ブログで何度も綴りましたが、皆様のお葬式の記憶の中で、一番残る時間だと思います。


真面目な価格相談には細かく答えるようにしていますが、内容には触れずに安ければ安いほど良いという風潮がこの頃増えてきているように感じています。
値切って貧相な葬儀で、後々後悔をするのよりは、じっくりと、どのような送り方をしてあげようかを考え、単に金額だけで、葬儀を決めることの無い様に望んでいます。

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