おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

葬儀の簡素化は疑問です

電話が鳴りました。「オヤジが亡くなったのだが、直送でやりたい」一瞬「またか」と心の中で思います。マスコミ等でお葬式の簡素化が良く取り上げられるようになり、会葬者を呼ばない「家族葬」から一切葬送の儀式を行わない「直送」と呼ばれる葬儀を希望する方も多くなりました。お葬式の内容を簡素にするのがトレンドだとか、お金をかけないのがスマートな方法などのマスコミの誘導で、お葬式は簡素化に向ってきています。


直葬と呼ばれるのは、お別れの儀式を一切しないで、24時間後に火葬炉に入れお骨にするだけという葬送です。当然、自宅の安置、納棺の儀式、お寺様や読経などの宗教色は一切無く、言い換えて見れば「ゴミ償却」のような印象さえ受けます。


費用の面から直送を選ぶ方も多いと聞きます。平均15万~25万円程です。費用が安くなるのは、家族葬で請求される、安置と飾り代、痛みを防ぐドライアイス、通夜の飲食費や式場料、祭壇費用、飾り花、霊柩車代などが必要ないからです。


格安の直送プランを売り物にする業者に内容を聞いてみました。病院で死亡の連絡を受けると、お迎えに行き、そのまま葬儀屋の冷蔵庫に直接入れます。これでドライアイスが節約できます。当然死に装束等のお着替えはしません。ご遺体は病院で着ていた汚れた寝巻のままです。市役所手続きはすべて、喪主がご自身で行ってくださいと伝えます。葬儀スタッフの手間を極力省くのです。市役所手続きは素人でも可能ですが初めての経験でかなり迷うと思います。24時間後に火葬炉に運びます。その前の納棺は葬儀スタッフだけで行います。家族の見ていないところで行えば、余計な事をせずに済むからです。病院の寝巻のまま寝かせ、家族がお顔を触れることも思い出の品を納めることもしません。お別れの花は一切ありません。コストが掛かることはすべて省略です。火葬場まで運ぶ霊柩車は使いません。運んできた寝台車で搬送し、家族は自家用車で後ろをついてこさせます。火葬場で代金を清算して骨箱を渡して、これで終了です。骨上げは家族だけで行ってもらうのです。


これでは、あまりにも亡くなった方が可哀そうです。送り出す家族に不満やトラブルがないのか心配になりました。この葬儀スタイルを選ぶ家族は亡くなった人への尊厳とか別れの悲しみなどは一切無く、早く済ませたいだけですよとの答えでした。


送る方の考えで極めて簡略化されたスタイルが出てくるのも時代の流れだと思います。しかし私はあまり賛同出来ません。一人の人間が生まれてから、成長し社会に貢献して、寿命を迎えるまでに沢山の人たちとの「ふれあい」があったはずです。何よりもこの故人がいたからこそ、貴方がここに生存しているのです。寂しい葬儀は、その仏様への感謝と故人が生きてきた人生を、送る側が否定しています。


弊社では一番簡単な葬儀として22万程で請け負います。これは生活保護世帯が市から受ける葬祭補助の金額と同額です。内容は直送に近いのですが、仏様の尊厳を汚さぬよう、そして一番大事な、送る家族達が、終わった後で後悔しないように行う内容の最低価格なのです。


ゆっくり故人と向き合う時間もなく、本当にこれで良かったのかと後悔が残る直送には疑問を感じています。

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