おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

骨壺だと気付かない骨壺

「葬儀屋さん、これ良いでしょう」と差し出されたのは金属で作られた15センチ程の卵型の物体です。普通に見ると、芸術品か洒落たインテリアの置物だと思ってしまいます。「素敵な骨壺ですね」と答えました。
この頃はお墓が無いご家庭も多くなりました。納骨の場所を決めるまで、ご自宅にお骨を安置せざるを得ません。葬儀屋のお仕着せの白い骨壺を長期に置くことは、いつまでもお葬式の記憶が残ります。仏壇がない現代のモダンな部屋に白一色の骨壺は違和感もありなかなか置きづらいものです。可能なら他の家具と調和のとれた、お部屋に馴染む、骨壺には見えない骨壺に移し替えたいと願う家族も増えています。


火葬した遺骨を納める骨壺は飛鳥時代に蔵骨器(ぞうこつき)と呼ばれていました。中国から仏教伝来の際に火葬の習慣も広まり上流階級の間で蔵骨器が使われました。表面に豪華な装飾が施され壺型、櫃(ひつ)型、椀形などがあったそうです。明治時代に火葬が法制化された後は、一定の規格が設けられるようになりました。


骨壺の大きさは地域によって異なります。拾骨する量に違いがあるからです。又、納める遺骨も本骨と呼ばれる喉仏の骨と、そのほかの骨を分けて収納する地域もあります。身体の骨をすべて納める東日本では7寸壺が使われ、西日本では一部拾骨なので3寸~5寸を使うのが一般的です。骨壺の大きさは寸で表示しますが1寸は3センチですので7寸の骨壺といえば21センチの骨壺になります。火葬後の高温になった骨をすぐ納めることから耐熱性のある陶磁器が用いられます。


手元供養という言葉が生まれ、遺骨をお墓に納めるのではなく、長期に自宅に置いておく方も増えてきました。ネットなどで骨壺を調べると多種多様の品が出てきます。陶磁器の骨壺は、有田焼、九谷焼、瀬戸焼、備前焼と沢山の種類から選べます。陶磁器は釉薬の具合や絵付けなどによってデザインが非常に豊富です。陶磁器の他に大理石、オニキス、カメオなどの素材やガラス製、金属製、木製などもあります。


火葬場でお骨を拾うタイミングでは、まだ温度が高い場合もあるため、骨壺の材質によっては熱が伝わりやすく熱くなることもあります。場合によっては、購入したお気に入りの骨壺が割れてしまう可能性もあります。このような時には、火葬場では葬儀社や火葬場で購入した陶磁器のものを使い、ご自宅に帰った翌日に温度が下がった後で、好みの骨壺に移し替えてください。


個人で購入された骨壺は収骨で使用した骨壺の比べて少し小さいかもしれません。嵩を減らすためには、焼骨を袋に入れ、上から少し押さえつけると簡単に崩れます。一部を粉骨にすると移し替えが楽になります。小さいインテリア骨壺に収骨したお骨の少量だけを移して、残った骨はお寺の納骨堂へ納めるなり、粉骨にして海洋散骨や樹木葬に葬る方もおられます。


後日、お片付けにお邪魔しました。あの骨壺が、なんと玄関の飾り棚の上に置いてありました。喪主様が「朝は、行ってきます、夕方は、ただいまと、家族が声をかける場所に安置しました」と答えてくれました。
他の人には、これが遺骨の入っている骨壺だとは絶対に気がつかないはずです。

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