おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

仏様が作った花祭壇

お宅は、路地奥の小綺麗な一軒家でした。 入口の小道から庭一面に植木鉢が並び、
かわいいお花が、それぞれの植木鉢に咲いていました。


毎日、一つ一つのお花を、かわいがり丁寧に手入れをするのが日課だったそうです。


倒れた当日も、植木鉢の水やりの最中でした。


お花が大好きだった奥様が、今回の仏様です。


祭壇の飾りつけのお話が出たときに、喪主を務めるご主人が、


   「家内が世話をした、花を飾れないかな」


と、提案してきました。


良い提案だと思い、出入りの花屋さんに相談すると、あまり乗り気ではありません。


「植木鉢の花は小さくて見栄えが悪く、祭壇花には不適当です」


その通りですが、何とかしてあげようよ、と説き伏せ、2トン車で百個近くの植木鉢を
運び出しました。一つ一つはそんなに重くないのですが、さすがトラックに満載の
土の詰まった植木鉢の移動は、重労働です。


祭壇に並べてみましたが、お花屋さんが指摘した通り、植木鉢が目立ってしまい
まるでレンガを積み上げた祭壇のようになってしまいました。


「ちょっと待っててね」


こういうと私は、喪主様の待つご自宅へ車を走らせました。


亡くなった奥様の趣味は、お花を育てることと、もう一つ、咲いたお花を水彩画で描くことでした。ご自宅に丁寧に描かれたお花の絵が何枚も飾ってあるのを思い出したのです。


葬儀場に何枚もの絵を持ち帰り、植木鉢を隠すように並べました。



ご近所やご友人たちが通夜の会場に集まり始めます。


祭壇を見たどなたの口からも、驚嘆の声が上がりました。


 「うぁー、素敵な祭壇」
 「亡くなった彼女が一番喜ぶ祭壇よね」


喪主が、私に囁きました。


「これからは、この妻の魂が入った植木鉢を、大事にするのを生きがいとして、
 残された人生を送ります。」

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