おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

終の棲家は墓から納骨堂

葬儀屋には様々の営業の方が来ます。線香、仏具、棺、仏壇、墓石、墓地その中で近頃増えてきているのが納骨堂の売り込みです。高齢化と少子化が同時に進んでいる日本です。葬儀業界で取り上げられる問題の一つが、大都市などで深刻化している墓地不足なのです。


首都圏では土地の価格の高騰もあり、新しく墓地をつくることが難しくなりました。しかも墓地の経営基準の法律が厳しくなり、墓地を新設できるのは原則として宗教法人、公益法人に限られています。又、立地にも厳しい条件が強いられ、河川や海等からは20メートル以上離れていること、住宅や学校、病院、店舗等からは100メートル以上の距離を取ることなどの制限もあります。そして墓地や火葬場を建てるとなると、必ず近隣の住民に理解を得られず、反対運動が起こります。これが墓地建設をしたくても、新設が難しい理由です。


しかし大都市に人口が集中すると、当然高齢者の数も多くなります。都会で最期を迎える方も増えるのです。少子化の子供たちは田舎から大都市に移り住み、最終的に年老いたご両親を引き取り、その結果、田舎の家とお墓は処分します。そうなると、都会で見送った、両親の遺骨を納める場所が、簡単には見つからないのです。


そこで注目され始めたのが屋内型納骨堂です。納骨堂とは、お墓と違いご遺骨を土に還さず骨壺でそのまま収蔵します。又、建物の中に数多くの他人のお骨の納骨スペースを備えていますので、マンションのような終の棲家と例えられることもあります。納骨堂は昭和初期からありました。その時代は、お墓を建てるまでお寺の境内で一時的にご遺骨を預かる施設の名称でした。それが最近ではお墓の代わりの施設になり始めています。


寺院墓地の場合は特定の宗派でないと納骨を受け付けないという制限があることが多いのですが、納骨堂の場合は、宗派・宗旨に関係なく利用できる施設も多いのです。又、年間管理費が不要のところも多く、お布施等の心配もありません。墓地のお墓ですと承継者がいなくなる場合は無縁墓になってしまいますが、納骨堂は永代供養で心配がありません。


お墓を立てる墓地が不足している現在、納骨堂は増加してきています。墓地に比べ新規設置にかかわる法規制が厳しくないのも理由の一つです。墓地には距離の規制がありますが納骨堂においてはこの制限がありません。そのため商店街や住宅の近くに新設することが出来ます。また一見すると外観も納骨堂と判断しづらく苦情も出にくいようです。駅に近いビル型の施設が多く、天候に左右されにくい点も魅力で、お墓参りが楽になったとの声も聞かれます。又、墓石が不要ですから、購入費用が比較的安いこともあげられます。


これまでの納骨堂は、葬儀後の遺骨の仮置き場としてのイメージでした。しかし最近ではこれからのお墓としての認知が広まりました。参拝しやすいような立地の施設も増えてきています。そのため納骨堂への抵抗がある方が少なくなりました。最近では先祖からの墓地のお墓を処分し、中の遺骨を納骨堂に移す人も出てきています。


核家族化で家族の単位が小さくなり、それに伴い高齢者が望むお墓のスタイルも変化してきています。お寺の境内に先祖代々の墓を作るこだわりも薄れてきました。ビル内のロッカーのような形でも、個別に参拝できる遺骨の置き場が好まれました。家から近い施設が良いと考える人も増えました。これからは終の棲家は屋内納骨堂に変わりつつあるのです。

×

非ログインユーザーとして返信する