おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

袱紗を使うのは上級国民

先日、顔なじみのお坊様と世間話をしていたところ、ご住職からこんな話が出ました。
「お布施を袱紗に包んで出してくるお家をすっかり見なくなった。先日の喪家様が袱紗で包まれたのし袋を出されたときに、このお宅は常識と品格があるなあと感じて、お勤めをいつもよりしっかりとあげた」
オイオイ袱紗一枚で御経が変わったらいかんだろうと突っ込みはしませんでしたが、確かに、袱紗で包まれた香典袋を受付で見ることがほとんど無くなりました。


皆様はお葬式の受付で香典を出すときに、袱紗(ふくさ)を使いましたか?もしかしたら袱紗とは何ですかと質問なさる方も出てくるかもしれません。


ご祝儀や御香典を入れたのし袋を持ち歩く際にポケットや鞄にそのまま入れると、しわがついたり水引が崩れたりします。型崩れや汚れを防ぐために用いる小さい縮緬布が袱紗です。日本人はお金を直接手で持って渡すことは相手に大変失礼だと考えました。お金を包んだ袋をさらに袱紗で包むことによって、相手を敬い、礼儀と気遣いを示したのです。


正式な場面で使われるものが風呂敷型袱紗です。金具が付いた爪付きや、台付きなどもあります。金封を出した後は小さく折りたたむことができるので冠婚葬祭に便利です。


布の色は慶事用には赤、朱、オレンジ、黄色などの暖色系が使われ、弔事用には緑、紺、藍、茶色などの寒色系が用いられます。紫色は慶弔どちらの場合でも使用することができます。慶弔で併用してもマナー違反にならない紫の袱紗は最初の一枚として便利です。


お寺様に「この家は品格のある上級国民だな」と思わせるお布施の出し方をお教えします。
まず切手盆(きってぼん)という小さなお盆を用意します。手元に無い場合は葬儀屋に借ります。お寺様の前に進み、お布施の入ったのし袋が包まれた袱紗を開きます。袋を出し、袱紗をのし袋の形にたたみ直し、切手盆の上に置きます。その上にお布施の袋を載せます。下から、お盆、折りたたんだ袱紗、お布施の水引袋の順番になります。
「よろしくお願いいたします」
と、お寺様から見て表書きの名前が読めるように置いて差し出します。受け取ったお寺様は袋だけ受け取り、袱紗と切手盆は返してくれます。これで、いつもより気持ちが入った完璧な御経が、読みあげられます。


お布施を茶封筒や半紙に包んで、そのまま直接手渡しするのは大きなマナー違反です。


昔から日本には、「まつりごと」を大切に考えました。日本独特の礼節を重んじる儀礼から袱紗の作法もはじまりました。袱紗一枚を持つことで、我々が忘れかけている礼儀を相手に感じさせることが出来るのです。


使い慣れない袱紗を使って金封を包み、スムーズに渡すのは、意外と難しいものです。しかし大人の身だしなみとして、袱紗を持ってみませんか。袱紗のマジックで貴方の品格が格段に上がるのです。

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