おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

コロナ感染死亡のご遺体

朝方に掛かってきた電話でした。「コロナで亡くなったのだが、お葬式を頼めるかな」電話口の声は遠慮がちに尋ねてきました。「もちろん、コロナウイルス感染症で亡くなられた方でもお手伝いいたします。どちらにお迎えに行きましょうか」と答えました。たしかに、この病気は怖いです。しかしそれよりも、このコロナ感染症で亡くなられた方々が、あまりにも理不尽で可哀そうなお葬式をしなければならないことに、納得がいかない私です。


このコロナ感染症は最初から指定感染症に決定されました、感染症には1類から5類まであります。1類感染症はエボラ出血熱、コンゴ出血熱、痘そう、南米出血熱、ペスト、マールブルグ病、ラッサ熱です。この感染症は死体に触っただけでもうつる非常に危険な病原体です。当初コロナ感染症もこの1類感染症と同じ病気だと思われてしまったのです。これでご遺体を非常に怖がる、間違いが起きてしまいました。ご遺体に近づくだけで感染すると思われたため、厚生労働省から24時間を待たずに火葬すること、ご遺体は真っ黒な非透過性納体袋にそのまま納めること、遺体を収容した納体袋については体液の漏れないようにチャックの部分をテープで塞ぎ、運搬の際はゆすったりぶつけたりすることのないようにすること、すみやかに納体袋のまま納棺し火葬炉に運ぶこと、等の通達が出ました。


そのためタレントの志村さんの葬儀では、病院から真っ黒な袋に納められて家族親族の立ち合いもなく火葬炉に入れられ、お骨箱は手渡しもなく、そのまま玄関先に置かれると言うショッキングな場面が、何回もテレビ放映されました。同業者から見てとんでもない葬儀屋だと憤慨していたのですが、後であの場面はマスコミのヤラセも入っていたらしいとも聞きました。感染症を怖がらせるために志村さんの死去が使われたようです。


コロナ感染症は飛沫感染です。死体は咳やクシャミをしません。まして、火葬後のお骨からは絶対に感染しません。たしかに、医学的見れば、危篤の患者さんが死ぬ前に咳やクシャミの後口元を手で押さえ、その手で周りの物に触れるとウイルスがつき、他の方がそれを触ると粘膜から感染するので、接触感染もあり得ると言うかもしれません。それでも葬儀屋が注意して納棺し接触を防ぐ手段をとれば、普通のお葬式が可能だと思います。


葬儀屋は感染症の知識も持っています。肝炎は血液感染ですから死体からの出血には十分注意します。結核は死体の胸を強く押すと、感染可能な結核菌が飛び出してきます。コロナに関しては死体から咳やクシャミは出ません。納体袋の外側に付くとされるウイルスも消毒して時間がたてば感染の可能性は少なくなります。ご遺体を恐れることはありません。


コロナ指定病院で真っ黒なビニールの納体袋に入れられたご遺体を葬儀会館の安置室に運びました。喪主様に「ご遺体からの飛沫感染はありません。手指衛生を徹底すれば接触感染も防げます。普通のお葬式も可能だと思います」と提案しました。
ですが「家族も親戚もコロナの遺体を怖がっている」「そうですか、それでは先に火葬を行い、お骨上げの後に葬儀を行なうのは如何でしょうか」骨葬という先に火葬を行い、その後、骨箱を祭壇に飾るお葬式は東北地方では一般的です。今回のこのコロナ死の仏様も骨葬で行われました。


コロナウイルス感染症は令和3年2月施行の感染症法の改正により「指定感染症」から「新型インフルエンザ等感染症」へ変更されました。現在見直しも進んでいます。これでお葬式も普通に出来ます。それでもご遺体を恐れる風潮はまだまだ多く残っています。皆様の誤解を解き、出来れば普通のお葬式を行ってあげたいと願います。コロナが憎い私です。

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