おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

ネットで探したお坊さん

駐車場の入り口に近い一画に「寺院様駐車場」の看板が立ててあります。お葬式のある時はベンツやセンチュリーの高級車が止まる場所です。本日、やって来たお寺様の車はミニバンです。後部はキャンピングカーのように寝起きが出来るようです。


今回の打ち合わせのテーブルについているのは若いご夫婦です。高齢のお爺ちゃんのご葬儀の施工依頼でした。喪主をつとめるのは故人のお孫さんにあたります。


「お寺様はどちらでしょうか?」
「ネットで注文済みです」


始めて聞く言葉でした。昔からその地域に住んでいるご家庭ですと、過去に何回かお葬式を出しているはずです。当然檀家としてどちらかのお寺様とのおつきあいがあるはずです。 お葬式をお願いするならそのお寺だと思っていました。今回は新しいお坊さんを呼ぶのに驚きました。それもネットで発注ですから、一瞬大丈夫かなとの思いがよぎりました。


お寺様派遣サービスの利点は菩提寺のない方が簡単に利用できることです。当然お寺とは依頼した葬儀のみのお付き合いになります。葬儀後、檀家になるようなことないので、気軽にお坊さんを呼んで葬儀をする場合は便利です。インターネットで24時間365日受付ならいつでも申し込みが可能です。希望の条件の金額のお坊さんが来るのも安心です。お車代御膳料などの追加の心づけが無いのもメリットです。


車から降りてきたのは、まだ若いお坊さんでした。


「よろしくお願いいたします。ご宗派どちらでしょうか?」
「どの宗派でも大丈夫です」


そう言われてもご本尊の掛け軸とか、木魚や鈴の鳴り物の準備もありますので決めていただかないと先に進みません。


「軸は六字名号の真宗でいいです。御経は般若心経(はんにゃしんぎょう)がお客のうけがいいので、この御経でいきます」


 (おいおい浄土真宗系は般若心経を読まないぞ)と、心の中で突っ込みます。


ネットの派遣僧侶には偽のお坊さんもいるようです。すべての宗派の御経が読めると豪語する自称僧侶の素人が紛れ込んでいるとも聞きました。袈裟を着て、たどたどしい読経をしておいて、お布施はしっかり受け取る悪徳ビジネスでは困ります。


又、菩提寺に連絡しないまま、勝手に葬儀や戒名をつけた場合に、後日納骨の時にトラブルに発展することもあります。お寺としては、お布施が減ることで死活問題になるので黙っていられないのだと思います。


現代はクリック一回で買い物が出来て、食事も届きます。だからと言ってクリックで届くお坊さんには、疑問が湧くのです。葬儀は人の尊厳に関わる儀式ですから。

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