おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

娘に捧げたひまわりの花

火事が起きました。残念ながら若いお嬢さんの人生が無くなりました。早いうちに奥様を亡くし、父親一人で大きく育てた最愛の娘さんが、旅立ちました。


事故死の中でも焼死体は無惨な死体になります。真っ黒に焼け焦げた固まりは、燃えさかる炎を少しでも避けようと、丸く胎児のように縮めた身体です。その黒い物体からは、くすぶった炭から出るような、焦げた鼻にツンとくる臭いがします。


「もう焼けているなら、火葬しなくても」という、絶対笑えない冗談は禁句です。
水で濡らした綿棒を、口のあたりと思われる場所に、軽く押し当てました。
真っ黒なビニールで出来た納体袋に納めても、焦げくさい臭いは周りに漂います。


「遺影写真をどうしましょうか」


憔悴しきった父親に、静かに尋ねました。当然、家の中にあったアルバムを含む家財一式はすべて燃え尽きています。


「何もかも無くなってしまった」


なんとかしようと、恐る恐る尋ねてみました。


「スマフォに娘さんの写真が入っていませんか?」


画面の中をしばらく探しました。やっとの思いで見つけた一枚が出てきました。小さいお嬢さんが一面のひまわり畑の中で笑っています。昔、アルバム整理の時に、たまたま気に入った一枚のプリントを携帯電話で写真に撮っておいたものだそうです。


「娘はひまわりが大好きでした。ひまわりの花で送ってあげたい」


すぐに花屋さんに電話を入れます。ですが葬儀の花には、ひまわりは普通使いません。案じた通り、ひまわりの花は店内にはありませんでした。それでも事情を説明し、青果市場、問屋さん、知り合いの花屋さんと手をまわしました。あちこちから数本ずつのひまわりの生花が届きます。
黄色い大輪が棺桶を囲む、向日葵(ひまわり)の祭壇が出来上がりました。


太陽を追いかけるひまわりの花言葉は「私はあなただけを見つめる」だそうです。


しばらくして、お家の立っていた場所を通りかかりました。
焼け崩れた家屋は解体し運び出されて、空き地が広がっていました。
「売り地」と書いた不動産屋さんの看板が立っていました。
お家のあった場所に、なにか黄色いものが見えます。


一本の向日葵が太陽に向かって伸びていました。

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