おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

精霊棚に茄子の牛が2頭

お顔にかけた白い布をめくりました。そこには微笑んだお顔のお爺ちゃんが寝ていました。
初盆は、初めて迎えるお盆のことです。新盆と呼ばれることもあります。
多くの地域ではお盆の時期は、8月13日~16日ですが、初盆だけは7月中に行われることがあります。お盆は亡くなった人が年に一度家族のもとに帰ってくる日です。特に初盆は故人が亡くなってから初めて迎えるお盆ですから、通常のお盆よりも念入りに供養の行事が行われます。


初盆の準備には精霊棚(しょうりょうだな)と言われる飾り棚を仏壇の前に置きます。この棚は小さなテーブルの上に真菰(まこも)を敷き、その上に位牌を並べたり、ご飯や供物をお供えしたりします。四隅に青竹を立てて竹の上に縄を張り、そこにホオズキや素麺昆布などを飾る地域もあります。


飾り棚に、胡瓜(きゅうり)で作った馬と、茄子(なす)で作った牛を置きます。
胡瓜の馬には
「早くお迎えしたいので、足の速い馬に乗って来てください」
茄子の牛には
「お土産がたくさんあるので、力持ちの牛に乗って、ゆっくりとお帰りください」
という願いが込められています。


先祖や故人の霊が迷うことなく帰りつくために、夕方に玄関先などで迎え火を焚きます。素焼きのお皿の上でオガラを燃やしますが、現在では火を焚くことが難しくなりました。迎え火の代わりに飾るのが盆提灯です。精霊棚の脇に目印となるように提灯を飾ります。とくに初盆では帰る家を間違わないようにと、家紋や絵柄のついた提灯を対にします。



昨年、長年連れ添ったお婆ちゃんを見送り、初盆の用意をしていた、お爺ちゃんが、仏壇の前で、眠るように息を引き取りました。


精霊棚の御膳には、茶湯器という湯のみを置きます。 仏様は、お茶のかおり(湯気)をいただきますので、お茶を入れて、ぬるくなって湯気が出なくなると、新しいお茶に差し替える事を繰り返します。
 
  「お婆ちゃんは、お茶が好きやったから」


お爺ちゃんは、何回も新しいお茶に取り替えていました。
静かだなと不思議に思った家人が、様子を見に行くと座ったまま亡くなっていたそうです。


  「お袋が、迎えに来たのだな」
と、喪主様が、つぶやきました。
お棺に入った、お爺ちゃんのお顔は、微笑んでいました。


仏壇の前の精霊棚の茄子の牛が、いつのまにか二頭になっていました。

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