おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

火葬炉の前には二人だけ

行旅死亡人(こうりょしぼうにん)と言う言葉をご存じでしょうか?亡くなった方の、氏名本籍地 住所などが判明せず、かつ遺体の引き取り先が見つからない死亡者を指します。


例えば、ホームレスが路上で亡くなったとか、独居老人が孤独死で身元が分からない場合等です。親族が判明しても引き取りを拒否するケースもあります。
官報に公告された行旅死亡人の数は年間約700件あります。警察から連絡が来ると、納体袋と一番安い棺桶を持って引き取ります。翌日の朝一番の火葬炉で市役所の担当者と葬儀屋の二人だけで、番号で呼ばれるご遺体を見送ります。



くたびれたご様子の初老の男性が、事務所を尋ねてきました。


「葬儀屋さん、お金がほとんど無いのだが、弟を骨にしてもらえんかな」


お話を伺うと、家族も親族も無く、本人は生活保護で 現在ドヤ暮らしとのこと。
今しがた病院で亡くなった弟さんは、蓄えていた生活費をすべて、入院生活で使い切ってしまい、病院から督促を受けている次第。
 
看護師さんから「早く運び出してください」と言われ困窮している様子が分かりました。
 
「安心してください」 と言い、病院から会館の霊安室に搬送し、納棺を終えて、24時間後に、二人で火葬炉に運び、荼毘に付しました。


骨壷を持って、お骨あげに向かいましたが、お寺もお墓も無いので、 お骨は持ち帰らないと言われ、二人だけで白骨の前で合掌し火葬炉の扉を、閉めてもらいました。


「お疲れ様でした、火葬場には大きな納骨堂があります。 弟さんのお骨も、たくさんの仏様に迎えられて寂しくないですよ」


声をかけたとたん、両手をがっしりと握られ、


「ありがとうございました、人並みに骨にすることが出来ました。貴方にすがって、本当に助かった」


肩を落としてうつむいて帰っていく後姿を見送りながら、煙になった故人に語り掛けました。


「見送ってくれる人が、一人でもいたあなたは幸せでしたね。あなたを送ってくれたお兄さんは一人での旅立ちを、覚悟されているように見えました。いつか、お兄さんに、見送ってくれる人が見つかるよう、天から応援してあげてください」

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