父親が手作りの水子棺桶
「小さい棺桶をください」こう言って事務所の入り口に立っていたのは若いご夫婦でした。女性はフワフワの産着を着せた赤ちゃんを抱いています。その赤ちゃんは泣き声をあげませんでした。死産とは妊娠12週以降に胎児が死んだ状態で生まれることを言います。12週未満の死産児の場合は人間とは認められず届け出はいりません。焼却は通常の廃棄物とは分けて専門業者が尊厳をもって処理をします。
死産は人間として認識された状態のことで、流産は認識される前の状態を言います。妊娠12週以降で出産前までに残念ながら育たず死産になった赤ちゃんを送るには産科医が記入した死産証書を貰い死産届を市役所に提出します。死産届が受理されると死胎火葬許可証が出て火葬炉で焼却が出来ます。22週以降は赤ちゃんが誕生後亡くなった場合は出生届の後死亡届になります。出生か死産かの判断は産科医師がします。また妊娠24週を超えている場合は24時間安置してからでないと火葬することはできません。火葬許可証がもらえたら火葬炉を予約します。胎児の柔らかいお骨を残すのは大変難しい工程になります。少しでもお骨が残る様に火葬炉がフル稼働にならないで、まだ窯が冷えている朝一番の予約を取ります。
死産用の棺桶は1尺(約30センチ)からありますが、たまたまその時は子供用の3尺の棺桶しか弊社には用意していなかった為カタログを見せて明日ならば取り寄せますと申し出ました。カタログを見ていた父親が思いついた様子で尋ねました。
「葬儀屋さん、これ自分が作っても良いのかな」「もちろんです。良いお考えです。ゆうパックか宅急便の箱を参考にして下さい」
一銭の売り上げにもならない手作りの棺桶を薦めたのは理由がありました。火葬場の職員さんが、こう言っていたのです。『死産児にベニヤ合板の立派な棺を用意してくるが、棺桶を燃やすのに火力を上げなくてはいけないので、中の赤ちゃんが跡形も無くなってしまうのだ。棺桶の灰を集めて渡すのが、なにか申し訳ないし心苦しくて、悩む』
数時間後、父親が天使の包装紙でくるまれた、かわいい箱を持ってきました。箱の裏蓋には、抱くことのできなかった子にメッセージが書いてありました。赤ちゃんはずっと病院から抱いていた母親から、手作りの小さい棺に移されました。
「俺がこの子にしてあげるのは、このくらいしか無い」父親が、そっとつぶやいたのが、聞こえました。
火葬場にご一緒し、職員さんにシッカリと伝えました。「手作りの紙箱の水子棺桶です。お骨をよろしくお願いします。」「了解」これだけで解ってくれました。暫くして、小さい骨壺に、立派なお骨が入りました。
名前もついていない赤ちゃんでした。しかし、太いお骨は二人の子供に生まれてきた証拠だと主張しているように感じました。女性が妊娠をして、十カ月の間体内で胎児を育み、無事に五体満足で出産をするのは、奇跡なのです。