おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

孫が手作りした死に装束

フューネラル

お顔に白い布をかけたお婆ちゃんの枕元に、大きな荷物を持って先ほど帰ってきたお孫さんが座っています。共稼ぎのご両親の代わりに、今、横になっているお婆ちゃんが、生まれた時から世話をしてくれてここまで大きくなったと後で聞きました。打ち合わせも終わり、ご自宅をお暇しようとした時にお嬢さんが質問してきました。「あの、棺桶に入れてあげるのはいつなのですか?」「納棺式は明日の午後三時を予定しています」「明日ですか?急がなくては」「なにかご予定があるのでしょうか」「手作りのドレスを着せてあげたいのです。まだ出来上がっていないので急ぎます」お嬢さんはドレスメーカ専門学校に在学中でした。


仏衣(ぶつい)は亡くなった方の納棺の際に着せる死装束で、極楽浄土へ旅立つための旅支度として用いられます。一般的には経帷子(きょうかたびら)と呼ばれる全身が白色の着物が選ばれます。修行僧の旅支度を模しており故人が無事に極楽への旅を終えられるように願いが込められています。今はメーカー完成品が全てですが、昔は血縁の女性が納棺に間に合うように手縫いをして旅立つ人に着せていました。


生きている人と死んだ人を区別する考えから仏衣の襟を通常とは逆にする左前に着せる風習があります。これは逆さ事(さかさごと)と言われます。左前にするだけでなく手甲や脚絆なども左右逆にするとか裏返しにします。仏衣が白い着物なのは諸説あります。極楽に旅立つ際に世俗の欲や邪念をすべて捨て去り清らかな気持ちで向かえるよう白い着衣を使用するとか、紅白の赤は誕生を象徴する色として認識されているため、その逆の白色を身に着けることで死を表現するという考え方です。


最近では経帷子以外にも故人の生前の想いを汲んで様々な仏衣が選ばれています。上質な素材を使用して鳳凰や鶴の豪華な柄が施されている着物とか現代的なデザインのエンディングドレスも選ばれるようになりました。フリルやレースがあしらわれた華やかなデザインも多くみられ色もカラフルです。故人の気持ちを大切にして生前に愛用していた洋服を着せたり、お子様に可愛らしい子供服を着せたりもします。寝ている死者に着せるため通常の洋服よりも着せやすい作りになっている点や、肌に優しいガーゼ生地や高級な絹が使われている仏衣も増えています。


納棺式が始まりました。お婆ちゃんに紫色のシックなエンディングドレスが着せられました。お孫さんの目が充血しているのは涙ではありません。納棺に間に合わせるために一晩中針を動かしていたのでしょう。周りから、ため息が聞こえるほど素敵なドレスを纏ったお婆ちゃんは、棺の中で輝いて見えました。


「お婆ちゃんは専門学校の進学を応援してくれて入学金を出してくれた。卒業制作課題の洋服は、お婆ちゃんに着てもらえる服を作ると決めていた。生きている時に着て欲しかったけど、私の作ったこの服で旅立ってもらえるなら嬉しい」


まじかに迫った卒業課題と聞いて、ふと心配になりました。「このドレスを燃やしてしまって、課題の締め切りに間に合いますか?」ついよけいな事を質問しました。「課題はまた作ります。服は着てもらうことが一番大事ですから」お嬢さんの口からプロの裁縫師の答えが返ってきました。

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