安置の後で取り掛かる事
長期の入院とか介護施設で長い間過ごされた後に、ご逝去された仏様をお迎えにあがります。そのような故人をご自宅に安置した時に気になる箇所があります。それが、手入れのされていない伸び放題の髪の毛と長く伸びた爪です。ほとんど身体が動かなくなった臨終が近い肉体でも不思議と、髪の毛と髭、手足の爪は伸びるのです。
それでなくとも高齢になると「床屋や美容院の長時間にはもう耐えられない」とあきらめて髪の調髪には注意を払わなくなる方も多くなります。介護が必要になる入院期間なら、なおさら普段はスッキリとしていた方でも臨終時にはボサボサの状態になる方を多く見受けます。又、長くなった爪にも注意します。過去に、介護施設から搬送した故人をご自宅に安置した時になにか臭うと気がつきました。身体中を清拭して紙オムツも変えたのに臭いのです。原因は伸びた爪の間に詰まっていたウンチでした。施設の痴呆患者は痒くなると、勝手にオムツに手を突っ込むのです。
今回の仏様も長期入院から旅立ち、久しぶりのご自宅に戻りました。娘さんが「お父さん、髪がずいぶん伸びたね。床屋さんに連れていってあげたかった」と話されています。「切るだけならお手伝いします」と伝えてエンゼルカットを始めました。生きている方の調髪には国家資格が必要ですが死体の髪の毛を切ることは葬儀屋でも可能です。仰向けの状態でハサミを入れますから耳の周りと前髪を揃えました。これだけでもサッパリとした印象になります。最期にご遺族様へ「形見分け」として切った髪を少しだけ半紙に包み「遺髪」としてケースに収めてお渡ししました。
入院が長くなるとお婆ちゃんの髪の毛も皮脂でベトつきペッタンコになります。その様なご遺体にはドライシャンプーで洗い、その後のドライヤーをかけるとペシャンコな白髪が、見る見るうちにボリュームのある髪になり元のお顔を取り戻します。
男女とも闘病生活が長くなると口周りの髭が目立つようになります。髭剃りも必要です。表皮を傷つけないよう注意しながら低刺激のT字髭剃りまたは電気シェーバーを使用します。髭剃り後はタオルで拭いて保湿します。小鼻は汚れがたまりやすいため指先でクリームをなじませ、汚れが浮き出てきたらティッシュペーパーを押し当てながら拭き取ります。その後、ファンデーションで黒ずみを馴染ませます。
眉を整えるのも大事なエンゼルメイクです。不揃いにボサボサに伸びた眉では可哀想です。ハサミで整えて眉ブラシでとかし、毛が足りないと思われる部分はアイブロウペンシルでうっすらと描き足します。眉の形はその人らしさのお顔を決めます。遺影写真などを参考にしながら、ご家族の記憶にある故人のお顔に直していきます。
長い闘病で唇が乾燥してひび割れていることも多く見ます。優しく保湿クリームで保護してから口紅を手に取ります。口紅の色も大事です。遺体用メイクキットの口紅では故人の使用していた口紅の色と違う場合が多く、お顔の印象が変わります。出来るなら故人がいつも使用していた化粧品を、ご家族に了解を得て使わせていただくと、いつものお顔に戻り、自然な表情に整えることができます。
旅立つ故人の尊厳を守るために、ヘアカットとメイクアップで整え、元気だった頃のお顔に戻して、残されたご家族の悲しみを少しでも和らげるお手伝いをするのが「おくりびとの仕事」です。