遺族に後悔の残る家族葬
ご近所の世話を焼く事が趣味のような、お爺ちゃんが突然亡くなりました。70代後半でしたが、いままでは病気も見つからず、まだまだ元気で過ごされていた日々でした。奥様とお二人の老後生活を楽しんでおられましたが突然の急変でした。救急搬送され運ばれた病院で虚血性心疾患と診断され旅立ちました。少し離れた場所に息子さん家族が住んでいました。急遽、駆けつけましたが間に合いあいません。お互い会うのは、お正月と夏休みに年二回程でしたが、決して不仲というわけではなく「適度な距離感」で時折電話で健康状態を確認するなど親子関係は良好でした。
突然のショックに悲しむ間もなくお葬式の準備が始まります。高齢の奥様は認知も出ていましたので、とても任せられる状態ではありません。長男が喪主を務めます。打合せの最初に担当者へ「家族葬で行ないます」と告げました。もう高齢なので大げさにせず家族だけで見送るのが良いと決めていたのです。母親は「親戚やご近所、お世話になった人達にお声をかけたらどうかね」と言い始めましたが「余計なお金はかけない、これからの生活費もかかるから」と家族のみで行うと突っ切りました。
残された母親と息子家族の4人で送る最小限の家族葬が決まりました。お坊様も喪主様がネットで探した「火葬炉前の読経」だけのお坊様が手配されました。すべての段取りが決定された時に玄関のピンポンが鳴りました。「お爺ちゃん、大丈夫でしょうか」お隣さんでした。救急搬送を知っていて気になり訪ねて来たのです。亡くなった事と葬儀は家族だけでと伝えます。「お葬式に参列できないのでしたら、今、お線香だけでもあげさせてください」と頼み込まれました。お隣さんが帰った後からが大変な騒ぎになりました。お隣から町会長へ連絡がいき、ご近所の皆様が次から次へと押し寄せてきたのです。「お葬式でお別れしたかった」「お世話になったお礼をお葬式で伝えたかった」「何故、皆さんを呼ぶお葬式をしないのか」そのたびに家族葬で行なうと伝えると、全員が納得のいかない残念そうな顔をしました。
親戚である故人の兄弟は高齢で遠方に住んでいますので、喪主様には、わざわざ呼ぶのは負担が大きいという気づかいがありました。それで親戚には参列をお断りして家族のみで送ると伝えたのです。ところが、この連絡に親戚全員が激怒して怒鳴ります。「お葬式に参列できないなど信じられない」「大変だろうと兄弟の葬儀は行くのが義理人情だろう」「葬式を挙げないなど親不孝だと考えないのか」「檀家の住職を呼ばないと本家の墓には入れないぞ」散々な言われ方をされました。喪主様としては「家族葬で良かったか」と後悔が出始めました。ですが予定通り進みます。
もう一つ喪主様の心を苦しめた出来事がありました。骨上げの後、仏壇の引き出しから1冊の通帳が出てきたのです。普段使いの年金や貯金の通帳とは明らかに別の綺麗な通帳です。中には500万円の預金と「お世話になった皆様にお別れをする私の葬儀のために」と手書きのメモが挟まっていました。
母が呟きます。「このお金を使って、親戚、ご近所が集まるキチンとしたお葬式をして欲しかっただろう」
骨壺を前にして慟哭する喪主様がいました。「家族葬という選択は、父に関しては合っていなかったと思っています。母まで苦しめてしまい、本当に後悔しています」
高齢だから簡素にと考えて、家族葬で良かったのかと悔やむケースもあるのです。