遺影写真を準備しますか
小千谷縮で誂えた単衣の夏着物を凜と召した高齢の女性が終活の相談に来ています。お話しの最初に「遺影写真だけはしっかりと用意したのよ」と言われました。差し出されたお写真は、半身の立ち姿で、お気に入りの着物を召して、なによりも自然な笑顔がとても素敵なお写真でした。わざわざ写真スタジオに出向き、生前遺影を手がける有名フォトグラファーに頼んで作ってもらった一枚だそうです。遺影を見慣れている葬儀屋が見ても「とても良く出来た遺影写真」と思える一枚でした。
なぜ、お金をかけて遺影写真を作る気になったのかを話し始めました。半年ほど前に急死した友人のお葬式に参列したそうです。式場に入った途端ショックを受けるほどの衝撃を受けたそうです。飾ってある遺影写真が、睨みつけるような怖い顔で作成されていました。普段の亡くなったご友人は、いつも微笑みを絶やさない柔和なお人柄でした。「何故、こんな写真を選ぶのだろう?本人が生きていたら絶対に反対したはず」と疑問が出ました。もちろん、ご遺族が選び「これで良い」とした遺影写真ですから、他人が口をはさむ余地はありません。それでも、自分の遺影写真だけは「納得のいく一枚」で作っておこうと決断した出来事だったそうです。
プロの撮影者は被写体のモデルさんに一生懸命に声をかけて、リラックスさせると聞いています。そして一回に何十枚と撮るそうです。その中からプロフェッショナルな感性で至高の一枚を選び出すのです。これなら素晴らしい遺影写真が出来るのも納得がいきます。
終活と言う言葉がマスコミで広がり、介護施設やデイサービスでも遺影写真を撮るイベントが開かれているそうです。しかし、高齢者がイメージする遺影写真は、真っ直ぐに正面を向き、真面目な顔で口を結び、ニコリともしない状態で写ります。特にカメラを向けられ「これから撮りますよ」と言われると、緊張のあまりお顔が強張るのです。これでは周りから見て「怖い顔」と言われるのも無理はありません。
ご家族が選ぶ写真も「真顔が当たり前」との先入観があり、なかなか笑顔の写真が出てきません。「笑顔のお写真はありませんか?」とこちらから尋ねても「笑った顔では弔問の参列者の皆様に失礼に当たる」と選ばないのです。「エガオ」と「笑い顔」は違います。その方の一番やさしい素敵なお顔が「笑顔」なのです。
それでも昔に比べると、黒い額縁に真面目顔だった遺影写真が全体的に「カジュアル化」しているようになりました。スマホで手軽に写真が撮れて遺影用の写真を生前に準備する「生前遺影」の動きも出てきています。なによりも旅立つ人が「自分の遺影が適当に選ばれてしまうのは気に入らない」という危機感もあるようです。
高齢者の中には写真に撮られるのが嫌いという人も多いのです。こうなるとご遺族が故人の写真を探すのに大変な事態が起こります。遺影の準備をすれば本人も自分が良いと思える写真を選べますし、なによりご家族が楽になります。過去のお葬式の準備の時に写真探しに苦労した経験がある人は「いずれ必要になるなら残される家族の為に準備しておこう」と考えてください。
素敵な一枚を見せられて「こんなに綺麗な写真なら私もプロに撮ってもらいたい」と心を動かされた一日でした。