おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

徘徊老人死亡は警察沙汰

フューネラル

警察庁が令和5年に届出があった徘徊からの行方不明者数は1万8千人と発表しました。高齢者の徘徊は認知症による周辺症状の一つです。記憶障害や見当識障害などの認知機能の低下が原因で起こります。徘徊は本人だけでなく家族などの介護者にも大きな負担となります。今回のブログは、徘徊からの死去された故人を送ったご家族の事の顛末を綴ります。


警察署からご自宅にかかってきた一本の電話から騒動が始まりました。「お宅のお婆ちゃんが発見されましたので確認のためこちらにいらしてください」「生きていますか?死んでいますか?」「こちらで確認後にお話しします」警察は身元が確認されるまで生死を伝えません。


高齢になって認知症が少し入っていたお婆ちゃんでした。たまに家族に何も言わずにフラッと出かけることもありました。年金の振り込みがあった昨日に外出したまま帰ってこなくなり「年金も入ったことだし、もしかしたら、また旅行にでも行ったのかも」と家族はあまり心配しませんでした。実際に過去にそのようなケースもあったそうです。「とりあえず朝になっても戻らなかったら一応警察に届けよう」そう話していた家族でした。翌朝になり行方不明者として警察に届け出ました。その矢先の一本の電話でした。


明け方、海辺に打ち上げられていたお婆ちゃんのご遺体を釣り人の方が発見したそうです。外傷はなく服も靴そしてバッグも身につけていました。家族はお婆ちゃんの口癖を思い出していました。「最後は海で死にたい」まさかそれを叶える死に方をするなんて思いもよらなかったのですが人の最期は誰にも解りません。本当に何が起こるかわからないのが現実です。


警察署の地下にある遺体安置所のベッドで寝かされているお婆ちゃんと対面しました。顔の布が取られると「お婆ちゃんや」と全員で確認しました。皆が自殺だと思っています。なんで勝手なことをしたのだ。どれだけ心配かけたか。悲しみより非難が先にたちました。検視官から告げられたのは自殺ではありませんでした。外傷もなく所持金もそのまま残っていましたので事件性もないと判断されました。他殺でも事故でも無いようです。解剖が行なわれて結果が判明しました。死体検案書の欄は「病死」でした。


一晩中の寒さの中の徘徊後、浜辺に出て歩いている途中で心筋梗塞を起こしたらしいと判明しました。心筋梗塞って胸をかきむしるような激痛のイメージがあります。でもお婆ちゃんのお顔は笑っていました。「お婆ちゃん苦しまなかったのかな」と家族は疑問に思ったそうです。でも調べてみたら高齢者には「無痛性心筋梗塞」が多いと解りました。眠るように旅立つ高齢者もいるようです。穏やかな表情を見た時に潮風の香る浜辺で眠る様に旅立つ景色が家族には見えたそうです。


お婆ちゃんの口癖は「死ぬなら海の近くがええ」「病院では死にたくない」「皆に迷惑をかけないで死ぬから」まさか実行するとはだれも思いませんでした。もしかしたら自分の最期を感じて、海まで徘徊を始めたのかもしれません。最後の力を振り絞って、遠くの浜辺迄歩いたのです。すごい行動力だと、誰もが感じていました。


棺で眠る故人が望む最期のお願いがありました。「私の骨は海に散骨をしてね」

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