おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

手作りの布団に包まれて

病院からご自宅に搬送を頼まれた時は「ご自宅の一階に仏様を安置するお布団を敷いておいてください」とお願いします。お家にご家族がいる場合なら、これから帰ってくるご遺体を安置する寝具の用意をはじめます。もちろん清潔な寝具の使用を望みますが、生前故人が使っていたお布団をそのまま使用しても構いません。納棺式まで、ご自宅のお布団で過ごされた仏様は棺桶に移されます。その後よく質問を受けます。

「このご遺体が寝ていた布団はどうすれば良いですか?」


気にならなければそのままお使いいただいても良いのですが、中には気持ちが悪いからと言われる方もいます。その場合は「お布団の処分には、粗大ごみに出して回収してもらう、ご自身でごみ処理場に持ち込む 、布団を打ち直して再利用する、遺品整理業者に依頼して持って行ってもらう等があります」と答えています。葬儀屋が別料金で引き取り、布団供養専門業者に依頼することも出来ます。どうしても予備の布団が用意できない場合は、葬儀屋に安置用布団を別料金で頼み持って行くことも可能です。


今回旅立ったお婆さんの晩年のライフワークは沢山のキルティング作品とパッチワーク作品でした。キルト(Quilt)とは保温性の高い寝具を作る技術のことです。表布と裏布の間に芯である中綿などを挟み表布・綿・裏布の三層を針で縫い合わせることでキルティングとも呼ばれています。中綿を間に入れて厚みを出すことによって保温と耐久性が高まり寝具や敷物などになります。縫い合わせたキルトの模様は、布団の中の綿が片方に偏らないように調整して空気の層を作り、ふくらみ具合を維持するためとフィット感を実現する重要な役割があります。日本では小さい布を縫い合わせて大きい布にしたパッチワークキルトが有名ですが、世界各地では気候や文化、生活スタイルの違いにより様々なキルトが存在しています。


喪主を務める息子さんが「母は家族の布団をすべて手作りしました。この安置する布団も故人の手作りです。出来れば極楽でも他の皆様に自慢できるよう、納棺の時に一緒に納めてください」


通常、棺桶には棺布団が付いています。死体にはクッション性も保温も必要ないので薄いペラペラのお布団です。このお婆ちゃんの旅立ちには、豪華でフカフカのお布団が使用されました。かけ布団も柔らかくフックラとした質感です。生きている人でもさぞかし「心地良く」休めるだろうと思いながらお蓋を閉めます。棺の上にも自慢のパッチワーク作品をかけて差し上げました。細かい模様が編まれた正方形の小さな布を幾つも継ぎ合わせて一枚の大判の布に仕上げた素晴らしい作品です。


お葬式には、故人が主催していたキルトとパッチワークの教室のお弟子さんがたくさん参列されました。お別れの時に皆様が棺桶の中を覗き込みます。「自らが作った手作りのお布団で旅立つなんて、幸せですね」「凄い、見事な作品、極楽でも自慢できそう」と賞賛の声を掛ける方が多く見受けられました。


焼香台の横に展示棚を作りました。作り続けたパッチワークの作品を山のように並べます。会葬者の皆様宛に故人からの感謝の気持ちとして喪主様からのメッセージが書いてあります。「本日のご参列に感謝申し上げます。皆様、故人の想い出にお好きなだけお持ち帰りください」

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