おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

骨を食べてもいいかしら

半年程前にご主人を亡くされたお婆ちゃんのご自宅へ納骨の相談に伺っています。公営墓地に購入したお墓があります。まず墓石に戒名と死亡日を彫刻してもらうために墓碑銘の掘り込みを石材店に手配します。そして納骨当日に墓石の移動とカロートの開閉を行うように連絡をします。カロートとは墓石の下の地面を掘り地下室にある遺骨を納めるスペースです。関東地方は骨壺のまま入れる場合が多く、関西地方は骨壺から遺骨を取り出し袋に入れ直して納めるケースが見られます。


お婆ちゃんがポツリと話し始めました。「この間健康診断にいったら、お医者さんが『骨粗鬆症ですね』と言うのよ」骨粗鬆症(こつそしょうしょう)とは骨密度が低下して骨がもろくなることで骨折しやすくなる病気です。特に高齢女性に多くみられます。骨がスカスカになってくるので、軽い転倒でも骨折をするとか、ひどい場合はクシャミをしただけで骨が折れることもあります。


主な原因は、加齢や生活習慣、閉経後のホルモンの変化、若い頃の過度なダイエットなどが挙げられます。骨粗鬆症は自覚症状が無いため、骨密度の検査を受けるなど日頃から意識してチェックすることが大切です。直接命をおびやかされることはありませんが要介護になったり、寝たきりになったりする可能性は十分にあります。


原因は骨からカルシウムが流出するからです。血液中のカルシウムは食事から摂りますが栄養バランスが悪く吸収できない場合には自分の骨からカルシウムを補います。この状態が長く続くとカルシウム量が少なくなり骨粗鬆症になるのです。


「この骨壺にある主人の骨を少し食べてみても良いかしら」お婆ちゃんが呟きます。確かに遺骨はカルシウムです。愛する人の骨ならば口に運ぶのも抵抗がないかもしれません。どこまで本気かと迷いましたが「あまりお勧めはしません」と打ち消しました。


実は、勝手に遺骨を食べることは法的に問題があるのです。刑法190条では「死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し遺棄し又は領得した者は、3年以下の懲役に処する」と死体損壊等罪が定められています。遺骨を食べる行為は、遺骨の領得(占有を取得する)にあたり、死体損壊等罪が成立すると考えられます。


ただし家族が内緒で故人をしのび、その遺骨を食べる行為までは、わからなければ不問とされていました。昔は遺骨を噛むことで、故人の力や霊的な繋がりを取り込むという意味の「骨噛み」という風習がありました。火葬後に家族が骨を分け合って食べたのです。この行為は近年まで愛媛や兵庫、新潟などの一部で行われていました。芸能界でも料理愛好家の平野レミさん、俳優の泉ピン子さんが「遺骨を食べた」と明らかにしています。家族が納得していれば罪には取らえないのです。


人の骨(焼骨)は食べても大丈夫だと言えます。ですが火葬の時に金属類を始めとして多種多用な物が溶け込んでいる可能性があります。六価クロムや放射能等の有害な物が付着している可能性もあります。なので、口に入れることはお勧めしません。


お婆ちゃんのつぶやきは、自分の健康とご主人へ強い愛情表現から出たと思います。しかし火葬炉から出てきた骨を口にする行為は遺骨への敬意を欠く行為になりかねません。ムラゴンの皆様は「愛する人の遺骨を食べてみたい」と思いますか?

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