おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

大切な人を亡くした後は

お葬式は大切な人との別れの場です。愛する人が亡くなった時、ほとんどの皆様は人の死に対してパニックになります。この状況を簡単に受け止められないのです。もう「この世に大事な人が居ない」と悟るショックや喪失感から涙やため息が止まらなくなり強い後悔を感じる人も出てきます。さらに死因や状況によっては故人の死を自身の気持ちの中に受け入れられず、感情を閉ざしてしまう人も現れます。


臨終後の数時間は家族がこの世を去ったという事実を理解する事で精一杯なのです。しばらくして死別を実感し始めると、次に考えることは「故人の為に何かできることはないだろうか」と思います。そしてお葬式の準備に取り掛かり始めます。


お葬式の打合せの最中は「周りに気をつかわせたくない」と悲しみの感情を押し込める人を多く見ます。側にお子様や家族が居る場合は「自分がしっかりしないといけない」と、無理をして気持ちを奮い立たせる人もいます。先ずは、自分の気持ちや感情を優先させてください。悲しい気持ちが落ち着くまで泣きたい時は思いっきり泣くのも重要です。周りに気遣うあまり、ご自身の気持ちを抑え込む必要はありません。悲しみの感情を出すことは閉ざされた心を軽くする効能もあるのです。


心の内を表わせないと「愛する人との時間をもっと大切にすればよかった」と自責の念にとらわれてしまう人も出てきます。そのままにすると不眠や食欲不振、無気力な状態が続きます。亡くなった人との思い出が浮かぶ度に気持ちが落ち込みます。気持ちが塞ぎ込み疲れがたまってくるのです。中には、あえて周りの家族に気を遣わせないように明るく振る舞う人も見受けますが、一人になり周りが暗くなると、何とも言えない寂しさに襲われ、一晩中涙がこぼれる時間を過ごすと聞いています。


昔は同居の家族やお隣さんなどの地域社会の中で、自然と悲しみが癒されていきました。今は核家族化を始めとする社会の変化によって、悲しみを一人で抱え込んでしまう方が増えています。悲しみを周りと共有できないと周囲から孤立していきます。特に自殺や事故、犯罪、災害などにより、突発的な死別を経験した方は、悲しみを乗り越えるのが難しくなり、その結果病的な状態に陥る方も出てくるのです。


「朝起きると隣で妻が亡くなっていて」と70代のご主人が話し始めました。お葬式だけは気力でなんとか済ませる事が出来ました。その後、生きる力が失せたそうです。食べることも寝ることも出来なくなり「このまま死んでしまう」と覚悟しました。男は弱い生き物です。配偶者が旅立つといっぺんに生きる気力が失われます。


「妻を亡くしてからは先のことは考えないようにしました。悲しんでいてもお腹はすきます。疲れると眠たくもなります。とにかく今日一日を生きようと思うようにしました。『今日を生きる』を決めて3回続けると3日間が過ぎます。7回続けると1週間が過ぎました。それをくり返していくだけで生きることが出来るのです」


死別の悲しみは時間が解決する訳ではありません。ですが、悲しみながらも、なんとか毎日を生きることが、その先を生きる気力に繋がっていくのです。辛い悲しみを抱えている時は「今日一日だけは生きてみよう」が、救いの言葉かも知れません。

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