おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

病院の一報は間に合うか

「亡くなりました」と連絡が入ると病院へお迎えに行きます。ほとんどが真夜中か明け方の時間帯です。「夜が明けるまで待ってください」と望む家族の希望は、大概はかなえられません。「一刻も早く運び出してください」とプレッシャーをかける病院の対応が多いのです。翌朝になると周りの患者も起き出してくるし、なによりも来院や通院で人目が多くなると、ストレッチャーに死体を乗せて廊下を運ぶ作業を周りに見せる状況は病院にとってマイナスイメージになりかねないのです。


安置の為ご自宅へ向かう搬送車の助手席に、臨終で駆けつけたご家族のお一人を同乗させる場合が多くあります。当然、お話しは最期の場面の思いが多いのです。「ご臨終に間に合いましたか?」
この質問の答えが「ベッドの脇に集まった家族に見守られ『今までありがとう』という最後の言葉を告げて静かに息を引き取った」等とテレビドラマのような情景を話されるご家族には今までお目にかかりません。


ほとんどのご家族は「病院から連絡を受けて急いでいったのだが、間に合わなかった」との、答えが返ってきます。高齢者の逝去ですとご家族からは「入院してから寝たきりだったし、いつかはその日が来ると覚悟はできていた」と話されることもあります。「親の死に目には会えなかった」と嘆き悲しむ方は少なくなりました。


シロウトの考えですが「もう少し臨終の連絡を早くしていれば、間に合ったのに」と思います。ところが、どうやら病院側にもそれなりの事情がある様だと解ってきました。終末期医療の関係者に聞いたところ、臨終の患者さんの連絡には「家族を動揺させないための呼び出し方のマニュアル」がある病棟が多いようなのです。


スタッフは患者さんの具合でそろそろ限界が解かるのです。血圧、呼吸数、体温、チアノーゼ、尿閉(おしっこが出ない)、下顎呼吸の具合で見て臨終の判断をします。ですが、あまり早く「ご臨終ですからすぐ来てください」と連絡をして、万が一、状態が戻ったり、亡くなるまで時間が掛かったりすると「あそこの病院は信用できない」などの評判が経ってしまいます。臨終の連絡は「この患者は確実に逝去する」と判断された場合だけに行うと決めているようです。


それも、第一報は「あまり具合が良くなさそうなので、今から来られますか?」という感じであまり深刻で無いように告げるのです。しかし、この時は「もう無理だ」の場合が多いのです。次の連絡は「いまどこですか?いつ着きますか?」にします。大概のご家族は「もうすぐ着きます」と返事をしながら「もしかして駄目なのか?」と悪い予感を懐きます。ほとんどのこの時点で、もう心肺停止状態になっています。


病院玄関に着いたと受付から病棟に連絡がくると、スタッフは止めていた心臓マッサージや人工呼吸を再開して、対面するご家族に「ここまでやりましたよ」とあえて見せつける場面も以前はあったと聞きました。


とにかく、病院からの第一報の呼び出しは意図的かどうなのかは定かではありませんが、あまり切羽詰まっていない様子の内容が多いようです。しかしその時点でほとんどは「もうダメ」です。病室で看取った経験を持つ家族は羨ましいと思います。

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