六文銭の舟賃を持たせて
納棺を始める前に亡くなった人には死装束(しにしょうぞく)に着替えてもらいます。この装束は死者が身につける着物です。この衣装に召しかえるのは、これからの旅立ちに必要と言われるからです。元々は経帷子(きょうかたびら)と呼ばれていました。現在でも四国の巡礼者や修行僧は着ています。装束の他にも様々な物を持たせますが、その中で参列者の興味を引くのが、首からかける頭陀袋(ずだぶくろ)の中に入れる六文銭を描いた紙です。このお金は三途の川の渡し賃と言われます。
一文とは江戸時代に使われていた貨幣です。そして一文銭を6枚連ねたものを六文銭と呼びます。文(もん)とは当時の小さな通貨単位を指し現代の10円玉と同じ扱いでした。一般的に一文銭の価値は、現代では30円から50円程度と考えられており、それが6枚連なると180円から300円程度の舟賃になるはずです。
仏教において亡くなった人は冥土に旅立ち、四十九日目に成仏すると考えられています。旅が始まって七日目に、三途の川へ辿り着くと言われており、向こう岸にあるあの世には、この川を渡し舟で渡って成仏しなければなりません。その舟を利用する代金が六文なのです。六文銭を持っていないのに三途の川を渡ろうとすると、懸衣翁と奪衣婆と名図けられた番人によって衣服が剥ぎ取られると言われています。
もう一つの由来は仏教の六道からきていると言われます。六道とは「地獄道」「餓鬼道」「畜生道」「修羅道」「人間道」「天上道」の6つの世界を表す言葉です。亡くなった人は上記の6つの世界を輪廻転生し続けるとされています。この世界に渡るためには六地蔵様に助けをお願いします。その六地蔵様に渡すお賽銭として一文銭が6枚必要です。故人へ持たせるお賽銭のお金として六文銭が必要だったのです。
六文銭は現在の通貨ではありません。代わりに今のお金を入れるのは、日本では、法律違法です。対処法として六文銭が印刷されている紙を入れたり、木で造られたレプリカを入れたりします。使えない硬貨でも逝去した方が「無事に極楽に着けますように。あの世でお金に困らないように」と願う遺族の気持ちが重要です。
歴史や戦国大名が好きな方は、六文銭と聞くと必ず思い出すのが戦国武将の「真田幸村」です。真田幸村の名前が出る理由は、真田家の家紋が六文銭だからです。六文銭に決めた理由としては、真田幸隆が「いつ戦場で亡くなっても構わない」という覚悟で、死に装束の持ち物である六文銭を家紋に定めたと言われています。
亡くなったお婆ちゃんの口癖は「お金は大好きで大事だから」でした。あちこちのタンスの引き出しに封筒に入れた紙幣が見つかったそうです。「認知もあり隠したことを忘れてしまったようだ」とご家族が話されていました。納棺式でご家族が「お金を持たせてあげよう」と提案しました。本物の紙幣や硬貨は法律違反ですから、皆様で、お札の大きさに切った半紙に千円とか五千円とか一万円と書いて棺桶に入れてあげました。結構な金額を持ったお婆ちゃんは嬉しそうに旅立ちました。
金銭を棺に納めることは海外でも見られる風習です。この世は拝金主義の世界になりました。あの世もお金次第かもしれません。皆様はいくら持って出発しますか?