おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

終の棲家にする改修工事

病院の霊安室からまだ暖かいご遺体をストレッチャーに乗せ換えて、搬送車をご自宅へ走らせます。葬儀屋は地場産業ですから地域内の家々の位置は頭に入っています。それでも大半のご家庭に上がり込むのは初めての場合が多いのです。ご自宅のお布団に安置してご遺体を綺麗な状態にした後でお打ち合わせを開始します。その時に気がつくのです。「このお宅も、リフォームをして間もないようだ」と心の中で呟きます。近頃自宅を「終の棲家」にするリフォームをされる方が増えています。しかし「出来上がると、なぜかお葬式がやって来る」という都市伝説もあるのです。


高齢化で足腰が不自由になり始めます。日常生活で介護が必要になると、今暮らしている自宅では色々とトラブルが起きる可能性が見えてきます。そうなると施設に入らずに自宅で過ごすために「終の住処」にする方法を試みる方は多いのです。


一番防ぎたいのは転倒事故です。転倒すると骨折し入院、寝たきりになります。手すりを日常的に使う場所に付けることから始めます。必ずしも家中に手すりを付ける必要はありません。身体を支えられる位置に安定した家具を置くことでも代用可能です。身体がぐらついた時に咄嗟に手が伸びる範囲に家具を配置して置きます。


戸建て住宅で2階建ての場合は、1階ですべての生活を完結できるように自宅内引っ越しをします。とくに夜間のトイレのことも考えると寝室は、1階にします。重要なのはトイレの改修です。歩行器や車椅子生活になれば、開き戸タイプのトイレはドアが邪魔になり入りにくくなります。引き戸にしてしまうと入り口の幅を減らすことになります。簡単な方法は扉を外してしまいカーテンを取り付けます。出入りに充分なスペースが確保され、間に合わず粗相してしまうリスクも軽減できます。


誰もが排泄だけは介助を受けずに最期まで自分で済ませたいと思います。ならばトイレを近くにすることも考えます。身体が思うように動かずトイレへ行くのが難しくなったなら、ポータブルトイレを寝室に設置します。最新のものは使用後の処理が簡単で見た目も普通の椅子に近いので恥ずかしくありません。いきなりベッドの横に置くのに抵抗があるのなら、寝室にある押し入れや納戸に設置し隠します。


浴室も足を滑らせるとか温度差でヒートショックを起こすなど事故のリスクが高い場所です。まずはドアの交換をします。重たい扉ですと力を入れないと開閉できないし、浴室内で転倒した場合に開けられません。車椅子でも開けやすくスペースを確保しやすい引き戸に取り換えます。浴槽をまたぐ際の転倒を防止するため、小さな踏み台も置きます。椅子としても使えますし、浴槽内で体勢を安定させるためにも利用できます。浴槽内に転倒を防止する滑り止めマットを置くのもお勧めです。


人生の最期を見据えた自宅改修で大事な事があります。それは一気に全部行わないことです。いきなり家中に手すりを付けたり、すべての段差をなくしてしまう完全バリアフリーの家にすると今までの運動量が極端に減り、かえって健康寿命を縮めてしまいます。冒頭の「リフォーム後のお葬式」はよくあることなのです。


実際に生活して不便だと感じたところから、徐々に手を加えていくようにしましょう。それが「自宅を終の棲家」にする方法です。

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