おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

近頃異常死が増えている

警察から「ご遺体引き取り」の連絡が入ります。搬送車を警察署の裏手にある遺体安置室に横付けしてストレッチャーを引き出します。解剖台の上に全裸で横たわる死体が乗っています。病院で亡くなられてエンゼルケアを済ませた綺麗な状態の死体に対面することは出来ません。たいがいは目を背けたくなるような損傷や腐敗が進んでいるご遺体です。黒いビニール袋で出来た「納体袋」を用意して全裸のお身体を納めます。


東京都が23区内で警察が関わった検案や解剖が必要な「異状死」の件数を発表しました。東京都監察医務院によりますと2021年は7544人でしたが、2022年は8762人となっています。1年で1000人以上も増えています。そして約7割が65歳以上です。それも一人暮らし世帯です。高齢の一人暮らしの「異状死」は死後の日数が経過して発見されます。検案までの死後経過日数は10日以上が2371人で、このうち30日以上は965人でした。死後経過日数が長いほど、正確な死因究明が困難となります。


異常死は「病院のベッドの上でお医者様に看取られて亡くなる以外の死に方」とも言えます。自殺、事故による死亡、災害による死亡が大部分ですが、自宅で亡くなった状態でも「かかりつけ医がいて診察後24時間以内の死亡であり、治療中の病気に関連する死であることが明らかと判定できる場合」以外は異常死扱いになります。自宅で死んでいるようなら先ず警察に連絡をします。検視官による検視が終わるまでは現場の維持が求められるので身内でも遺体を動かすことは禁じられます。


よく「けんし」の漢字はどちらですか?と聞かれます。「検死」と「検視」は何が違うのでしょう。まず「検死」とは手続きを指す言葉ではなく「遺体を見て調べる」という概念的な言葉です。一方で「検視」は「刑事訴訟法229条に基づき検察官やその代理人によって行われる捜査」とはっきり定義されています。法令上の用語として使う場合は「検視」を使用すると覚えておいてください。


検視を行ってもなお死因が特定できない場合や、犯罪の可能性がある場合に行われるのが「解剖」です。解剖には大きく分けて、「行政解剖」と「司法解剖」があります。「行政解剖」は犯罪の結びつきが考えられないが死因が特定できない場合に、遺族の承諾を得た上で行います。「司法解剖」は犯罪の可能性が高い場合に行われます。行政解剖のように死因の特定だけを目的とするわけではないため、遺族の同意がなくても裁判所の許可のみで解剖できるのが特徴です。


普通に亡くなり病院からもらう「死亡診断書」は1万円程費用が掛かります。異常死の場合「検視」自体には費用は発生しません。しかしその後に作成してもらう「死体検案書」には結構な費用がかかります。各自治体の監察医によって違いますが3万円~10万円が相場です。より死因を特定するために「解剖」をした場合別途15万円~30万円の費用が発生します。


検視後のご遺体は全裸の状態で安置されています。そのため状態にもよりますが、もしお身体が普通なら浴衣等の着用する衣服を準備してお迎えに行くと良いでしょう。少なくともパンツだけは直ぐにでも履かせてあげたいと思う私です。

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