極楽でする再プロポーズ
ムラゴンの皆様は、ご両親を送られたお葬式の時に故人が左手の薬指にはめていた結婚指輪をどうされたか覚えていますか?葬儀屋は納棺時に火葬場からの注意事項を説明します。「金属類はご遺骨に色がつきますから、入れられません」そうなるとメガネ、ネックレス、ピアス等は外します。結婚指輪も金属ですから外すのが決まりなのですが、実は結婚指輪を指から外す作業は結構厄介なのです。若い頃にはめた指輪は何十年と故人の指で年月を重ねます。老化で皮膚はむくみ、たるみ、なおかつ、臨終前の過剰な点滴で皮下浮腫がおきて、ブヨブヨの皮になっています。ムリをすれば皮膚が裂けてしまうのです。あきらめて「極楽の持って行ってもらいましょう」と声をかけることが多いのです。ご遺族も「絶対に外してください」とは言いません。結局ほとんどの結婚指輪は火葬炉の中で溶けていく運命です。
1000度で溶けた貴金属は骨灰の中で極小の粒になります。ところで皆様は火葬炉を運営する自治体が、骨上げ後の灰の中に残る貴金属を売却して収益を得ているお話はご存じですか?人体には金、銀、プラチナ、パラジウムなどの貴金属が多く使われています。すぐに思い当たるのは歯の治療の貴金属です。その他に人工関節に使われるチタンがあります。過去ブログ「金属のお骨」で火葬後に出てきた身体の金属について触れています。火葬後の残灰には貴金属の燃え残りが結構含まれています。この残骨灰を特別な精錬会社に売却して利益を得ているのです。
納棺時に金属類は納める事が出来ません。だからと言って口の中の金歯や指に食い込んでいる結婚指輪は外せません。ですから火葬後の骨灰に含まれる貴金属は非常に多いのです。
お爺ちゃんの納棺時に喪主を務める息子さんが、大事そうに指輪のケースを出してきました。
「このケースの中の指輪は先に亡くなったお婆ちゃんの指にはめてあったものです。入院してMRI検査で『外してください』と言われた時にお爺ちゃんに『大事に持っていてね、終わったらすぐまたつけるから』と言付けたそうです。その後、急変して結局指にはめることなく火葬にしてしまいました。後で気がついたお爺ちゃんは『大事な指輪を外したまま極楽に行ってしまった』と長い間悔やんでいました。今回持って行って、あちらで再会した時に指輪を渡してもらおうと思います」
お爺ちゃんが、奥様のお葬式の後に急に元気がなくなった理由の一つに、渡し忘れた結婚指輪の後悔があったのでしょう。最期まで「俺が死んだ時に婆さんの指輪も必ず持って行くから」と遺言していたそうです。
納棺式が始まりました。死に装束を召したお爺ちゃんの手を組ませます。もちろん左手の薬指には立派な結婚指輪をはめたままです。組ませた手の上に指輪ケースを置きます。中にお婆ちゃんの結婚指輪が入っています。
最愛のお婆ちゃんとの極楽での再会を願いながら納棺式を進めます。久しぶりの出会いにお爺ちゃんもお洒落が出来るように一張羅のスーツも入れました。指輪と一緒に渡す花束も用意しました。極楽でのデートを楽しめるようにと全員が祈ります。大事な指輪をシッカリと抱えた旅立ちです。
お婆ちゃんのお葬式の時にはめてあげるのを忘れてしまった指輪を渡して「再プロポーズ」を行なうお爺ちゃんです。