おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

遺骨の処分は海洋散骨へ

ワイドショーが「墓じまい」を取り上げていました。そして取り出した、先祖のご遺骨を、なんと海にまく海洋散骨を勧めています。お墓を処分すると、どうしても出てくる、多くの遺骨の行き先に悩みます。ほとんどの方は、新しく納骨堂を探して永代供養の形で納骨をするか、合祀墓と呼ぶ、大きなお墓の下で複数の遺骨をまとめて埋葬する墓地に納骨をします。合葬墓や合同墓、共同墓などとも呼ばれるこのお墓は血縁関係のない人たちの遺骨が一緒に埋葬され、長い年月で土に還ります。


ワイドショーは「近頃増えている散骨」も話題にしていました。散骨(さんこつ)とは、遺体を火葬した後の焼骨を粉末状にした後に海、山、空にそのまま撒く葬送方法です。勝手にこんなことをして法律的に大丈夫なのでしょうか?刑法190条に「死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し又は領得した者は三年以下の懲役に処する」とあります。しかし法務省は刑法190条について「葬送のための祭祀として節度をもって行われる限り遺骨遺棄罪に該当しない」という見解も出しています。


墓地埋葬法の第四条に「埋葬又は焼骨の埋蔵は、墓地以外の区域にこれを行ってはならない」とあります。墓埋法の解釈では「遺灰を海や山に撒く葬法は想定しておらず法の対象外である」という見解です。現在でも墓埋法に散骨の規定はありません。散骨は違法ではないが、合法でもないということでグレーゾーンなのです。 


そこで散骨サービスを行う業者は独自のモラルを一応決めています。海に撒く場合は海岸より20キロ以上離れます。航路や漁業が行われている海域と養殖場の地域は避けます。すべての焼骨を2∼3㎜程度の粉骨にします。環境保護の点から海水に溶けないものは撒かない、参列者の喪服着用は避ける、などがあります。
山へ撒く場合は、必ず粉骨にする。私有地の場合は山の所有者の承諾が必要である。山への散骨はあくまでも地面に撒く事であり、土の中に埋葬してはならない。散骨をした状態に人為的に土や落ち葉を掛ければ、それは埋葬になるので犯罪となります。各自治体の条例により禁止されている場所もあります。住宅地が近いとか、飲み水の採取場所などは絶対に避けます。地域生活者への配慮を考え目立たない服装で行ない防火上線香やローソクは厳禁です。


墓じまいをした後の遺骨の処分に「海洋散骨」を勧めるワイドショーのコメンテーターの意見には疑問を持ちます。そしてお墓を持たない世代の海や山への散骨人気にも本当にそれで気持ちの整理がつくのかと首をかしげます。当然、海や山での散骨を選ぶと、ご遺骨は二度と戻ってきません。「ただの焼骨には魂も無いし供養する物でも無い」と割り切れる方は少ないと思います。そして遺骨を納めるお墓の意義は、単純に納骨の役目だけではないように私は感じています。皆様の中にも、お墓の前で、様々な報告やお願いをされた経験を持つ方は沢山おられるはずです。


近頃は墓じまいの後のお骨の処分を遺族が立ち会わずに業者が代行する「代理散骨」も増えているようです。墓じまいは増えると思いますが、遺骨の行く先は家族と親族が納得し、心から良かったと思える葬送にして欲しいと思う私です。

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