祭壇も御経も無くて良い
「俺の葬式には、坊主を呼ばなくていい。御経もなくていい。祭壇もいらない」「ローソクもいらない、線香もいらない。ただ、お前たちが手を合わせてくれれば良い」「家族で一言『さよなら』と言ってくれれば満足」と話をされていたそうです。遺言のような言葉のひとつ一つに故人様の強い遺志を感じました。故人のお考えを尊重して、ご家族にご自宅でのお別れの場と、翌日の火葬式を提案しました。
お葬式という人生最後のイベントが大きく変わり始めています。お葬式と言えばイコールお坊様の読経と焼香が付き物だった仏教形式のスタイルも減り始めました。無宗教を選び仏事の儀式をすべて行わない内容も増えています。参列も家族のみで送ると決められ、ご親族を始め、ご近所や友人、過去の関係者などの弔問は一切断ります。もともと初めから死去の連絡すらしません。
言ってみれば「焼くだけ」と言うスタイルが「直送」「火葬式」と呼ばれるお葬式の形です。少し前までは生活保護世帯葬とか身寄りの見つからない行旅死亡人葬とも言われていました。お金の無い特別な可哀想な人だけの形式だったのです。
直葬の流れは、遺体の搬送・安置.納棺・出棺.火葬.収骨で終わります。葬儀屋への支払う費用の内訳は以下の通りです。病院へのお迎え寝台車搬送費、遺体安置保管料とドライアイス料金、棺・納棺費用、霊柩車、骨壺、役所・火葬手続き代行、火葬炉使用料金、待合室使用料、スタッフ人件費などです。一般葬では、納棺の後に「お通夜・告別式」と参列するイベントがあり「火葬・収骨」後に初七日法要や精進落としと呼ぶ会食の席がありますが、直葬の流れは上記のようにシンプルです。
直葬の一番のメリットは、お葬式にかかる費用を格段に抑えられることです。一般的な葬儀会場で目にする、生花を飾り付けた華やかな会場での通夜式や告別式を行わないため、経済的な負担を抑えることが出来ます。大人数の参列者への対応が不要なのも利点です。ご家族や身近な方のみで執り行うため、参列者への挨拶や、もてなしの食事の手配が不要です。又、香典を頂いた方への香典返しなどの葬儀後の対応も最小限で済みますので、金銭的と精神的な負担も軽減できます。
遺影は故人のお写真の中から家族が話し合い全員一致で、ゴルフ場での会心のショットの後の笑顔の一枚が選ばれました。遺影写真を飾りお別れ花を用意しました。弊社では、お坊様を呼ばなくともご焼香の希望は多いですから、簡易な祭壇を組み、焼香台と香炉をセットしてお線香とローソク一式を用意します。今回はそれも必要ないと言われましたので省きました。遺言通りの、形にこだわらずご家族4人だけで送る式典でした。故人が好きだった音楽を流しながら、それぞれが書いた手紙、趣味だったゴルフの本、ゴルフウエアが用意されました。お花を手にした家族が、棺を囲んで繰り返し「ありがとう」と声をかけながら副葬品を納棺していきます。一人一人が感謝を伝えるお別れのスタイルです。
棺桶の中の故人もご家族に「ありがとう」と答えているように見えました。世間体や風習に拘らず家族の「絆」だけで送る式典にあらためてお葬式の原点を教えていただきました。これからも故人の意志を尊重したお葬式のお手伝いをしていきたいと思います。