おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

お坊様への苦情あれこれ

先日、お勤めに来られたご住職の出来事です。大変なご高齢で周りの皆様からは「もう引退してもらおう」との声も上がっていると聞きました。ところが本人の頭には「引退」の一文字も考えにありません。檀家のお葬式の為ならば「這ってでもお勤めをする」と断言しているようです。本日のお通夜式にも、アチコチぶつけたようなベンツに乗ってこられました。駐車場から玄関まで歩いてこられる様子は、車イスでも持って行こうかと思える進み方です。しかし、控室に入り喪主様からお布施を受け取り、スタッフの手伝いで袈裟に着替えると、一遍に雰囲気が変わりました。


さすが長年、住職を務められたご老体は違うと感心していましたが、御経の声に張りがなく「ブツブツ何を言っているのか聞き取れない」と喪主様が後で感想を言われるほどです。読経の時間もアッと言う間に終わり、お決まりの法話もありません。喪家様や周りに声をかけることもなく、そそくさと帰られてしまいました。しばらくして片付けをしていたスタッフが、顔色を変えて私に向かってきます。
「座っていた座布団が濡れています」
当然、オシッコのお漏らしです。やむなくご寺院に電話かけてこう伝えました。
「ご本人には内緒にしてください。しかし明日はご子息にお勤めをお願いします」


何事もなく無事にお葬式が進行し、葬儀代金が全額回収できるまでが葬儀屋の勝負です。近年お寺やお坊さんについて「ひとこと」言われるケースが多いように感じます。初対面のお寺のクレームもありますが、それよりも多いのが先祖代々お願いしていた、菩提寺のご住職についてのクレームも良く見受けるようになりました。


全日本葬祭業協同組合連合会の調査では「僧侶が失礼な態度であると感じた」と感想を漏らす人が5割を超えているとの衝撃の結果も出ています。菩提寺の対応については喪主様が、葬儀後に後悔している項目にも必ずと言っていい程あげられます。お葬式や法事で来られた高齢のご住職の態度が悪いとか、嫌な感じと受け取った人が確実に増えているのです。


「お勤めの内容に対して請求されたお布施が高いと感じた」も苦情の一つです。確かに何十万のお布施の支払いを請求された時に「そんなに払うのなら、さぞかしお厳かな御経をゆっくりと丁寧に読みあげてくれるだろう」と誰もが思います。ところが、支払金額に見合う読経の長さやお勤めの仕草そして法話などがイマイチだった場合にどうしても「無駄なお金を払ってしまった」と悔やむ方が多いのです。高齢のお坊様へのクレームは「供養する故人の名前を間違えて読み上げた」「モゴモゴ言っていて聞き取れなかった」「時間までにこなかった」「途中で止まってしまった」「読経の時間が極端に短かった」「お布施が少ないと怒鳴った」なども続きます。


先代のご住職から代替わりして、若いご住職に変わったばかりのケースでも結構苦情に繋がります。「御経が下手くそだった」「なにか急いでいる様子で短い時間しか読経をせずアッと言う間に帰ってしまった」「先代のように有り難い法話が無かった」「お若いせいか声が高くて有難味のないキンキンとした御経に聞こえた」「抹香臭よりも身体から匂う強い香料臭が気になった」などのクレームが出てきます。


お葬式は、故人様への哀悼の意を表し感謝する大事な祭りごとです。引導を渡すお坊様にも、心を込めたしっかりとしたお勤めをしてもらいたいと感じる私です。

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