焼きあがるまで側にいる
皆様は火葬場に行った経験がありますか。ご家族や親戚のお葬式に参列された方は出棺の後に火葬場に同行して、棺を火葬炉に納め、お骨になるまで待機し、炉から出た白骨を全員で収骨した流れを想い出したはずです。火葬場は公共の施設です。地域によっては、古びて黴臭い施設もあり、最新式のピカピカの建物もあります。
火葬場に到着すると霊柩車から棺桶を出して台車に乗せ換えて炉の前に運びます。位牌と遺影を設置して、全員が炉の前に集まり儀式をあげます。ほとんどの喪家様にはお寺様が同行していますので火葬前勤行の読経が始まります。喪主、遺族、近親者その他の参列者が順に焼香合掌し拝礼します。香炉から昇る一筋の煙が極楽への道標になりますので、一つまみで一回だけ焼香をします。近年、無宗教葬も多くなり、お坊様が同行していない場合は、読経は省かれて直ぐに炉の点火となります。
昔は「納めの式」と名付けて棺の窓から故人様の顔を見ることが出来ました。肉体のお顔を見る最後の機会でした。近年は火葬時間の短縮が指導され読経が終わると直ぐに火葬炉に入れるようになりました。昔は、炉に入れたくないと棺にすがるご家族も見られたのですが、この頃は、皆様の涙も見なくなり淡々と点火されます。
火葬の所要時間は炉の形式で異なりますが、概ね40分から2時間半程度です。東京の最新式の電気炉は30分で焼きあがるそうです。お骨になるまでの時間は控室で過ごすように案内されます。控室にはお茶やお菓子が用意されています。ご家族は故人の思い出や生前のエピソードなどを語らって過ごされます。葬儀屋から見ると、火葬を待つ間、ご遺族の方にとっては深い哀しみや、故人様への感謝の想いがとめどなくあふれるなど、様々なお気持ちでおられると思いたいのですが、意外と皆様、微笑んで談笑されています。無事に終わったと思う安心感と久しぶりに会った親戚との話が弾み、笑い声が聞こえてくる控室もあります。
先日の事です。控室で待機している喪主様が血相を変えてやってきました。
「葬儀屋さん親父が居なくなった」「どこにいるか心配だ。一緒に探してください」
高齢で大分認知も進んでいて、今までも行方不明で警察のお世話になった事もあると聞きました。もうすぐお骨あげです。なんとか見つけないと大変です。万が一、外へ出て交通事故にでもあったら大事です。控室の全員が必死で探し始めました。
火葬が終わったとアナウンスが流れました。やむなく「骨上げを先に済ませよう」と火葬炉のホールへ入場しました。そこでお爺ちゃんを見つけ驚愕しました。この施設の火葬炉ホールは、事故を防ぐために入場時とお骨上げの時以外は立ち入りが禁止されます。途中での入場が不可能ですから最初から探す場所にはしませんでした。どうやら、他のご家族にまぎれて炉のあるホールへ入ってしまったようです。
「お爺ちゃん、なんでここにいるの」「控室で待っていようと言ったでしょう」
答えは返ってきませんでしたが、多分、火葬炉へと見送った後も、愛するお婆ちゃんの火葬が終わるまで、一番近くで見守っていたかったのではないでしょうか。認知のお爺ちゃんの思いやりのある一面を知った、ご家族から安堵の息が漏れました。