昔は、家を建てる時には、必ず葬儀が出来るように考量されたと聞いています。
確かに古民家等は、玄関がやたらと広く奥までの導線にゆとりがあり、襖を外すと
大広間が広がります。

この頃、病院からストレッチャーに乗せてご自宅へ向かい、安置をするのに苦労する
お家が増えてきています。

玄関が狭く、苦労して入った廊下から90度回さないと、安置する部屋に入れません。
そして廊下の幅が狭く担架が回りません。故人の部屋は二階だからと言われても、
担架で階段を上がるのは不可能です。それでも、せっかくご自宅に帰れたのだから、
なんとか安置しようと必死で考えます。
裏に周り、庭から窓を経由して安置をしたり、段差でもその場の全員で担ぎ上げたり、
出来るだけのことはします。それでも建売のお家で、玄関は狭く、廊下は余裕がなく、
窓は小さく、隣家との隙間もなく、どのようにしても入らず、ご自宅での安置を
諦めたこともあります。

もしもの時にご自宅に帰してあげようと考えている方は、1メートル80センチの物干し竿を横にしてスムーズに玄関から安置を考えているお部屋に曲げないで入るかを試してください。これで入らなければ棺桶を出すことも不可能です。

うかがったのは公団の五階でした。住宅公団にはエレベーターが付いていません。

80代のお爺ちゃんがほぼごみ屋敷と呼ばれるような部屋に寝ていました。そばに初老の息子さんが呆然と座っています。訪問介護は受けていたようで、看取りをしてくれた親切なお医者様が死亡診断書だけは書いてくれていました。
通常ですとご自宅死亡ですから、その場で納棺をしますが、この家に棺桶を運び入れるのは不可能でした。
ご遺体を運び出すためのストレッチャーの台車から上の担架部分だけを外して持ってきてはいましたが、担架に寝かせると玄関から出せないし、階段の曲がりの部分でつかえてしまいます。

「仏様を背負います」

運び出すために覚悟しました。搬送用シートにご遺体全体をくるみます。
ただ自宅の逝去ですから主治医の診断は済んでいまが、病院内逝去で行われる死後の処置はされていません。寝かせての搬送なら問題はないのですが、今回のように搬送時に身体を曲げると胃の中に残留物が出てくる可能性もあります。まず紙おむつと逆流防止の脱脂綿を喉に詰めました。
その後、シーツに二つの穴を開け、足を出し、おんぶをする形で背負い玄関から階段へ、　５階から4階へ。

これが重たい。子供がぐっすり寝込んだ時や、寝たきりの人を持ち上げたときになんて重いのだと、思ったことがある方は多いと思います。
おんぶは、される相手が背負われている協力をしているから出来るのです。
肩にずっしり重みを感じながらなんとか4階まで降りたところでさすがにちょっとへばりました。それまで見ているだけの初老の息子さんが口を開きました。

「俺が変わります。ここまでしてくれてありがとう。でも親父は俺が運びます。」

正直助かったと思いました。ただどう見ても私より体力があるようには見えません。
落とさないように気を付けて息子さん背中に移しそのまま車まで頑張ってもらいました。
車の助手席で息子さんがポツリと口を開きました。

「親父、こんなに軽かったんだ。最後に俺の背中にしがみついてきたようだった。」