おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

今年もお盆を迎えました

お盆の正式名称は盂蘭盆会(うらぼんえ)又は盂蘭盆(うらぼん)です。この呼び方は「盂蘭盆経」(うらぼんきょう)という御経の名前が由来です。旧暦と新暦の違いと地域によってお盆の時期は異なります。関東は7月15日が多いのですが、農業が盛んだった地方部では7月の農繁期にお盆の行事をおこなうことが難しく、そのために全国的には8月15日前後の4日間の期間を指すようになりました。


お盆には亡くなった家族やご先祖様が浄土から地上に戻ってくると考えられています。1年に1回、お家にお迎えして一緒に過ごしてご冥福をお祈りして供養します。昔は先祖や故人の霊が迷うことなく帰りつくために、夕方に玄関先などで迎え火を焚きました。素焼きのお皿の上でオガラを燃やしますが、現在では火を焚くことが難しくなりました。迎え火の代わりに飾るのが盆提灯です。玄関先の軒脇に目印となるように提灯を飾ります。とくに初盆では帰る家を間違わないようにと、家紋や絵柄のついた提灯を使い両側に対にして飾ります。一般的には13日に迎え火を焚いてお迎えし16日の送り火であの世にお送りします。


亡くなってから初めて迎えるお盆を初盆と呼び、通常のお盆よりも念入りに供養の行事が行われます。初盆の準備には精霊棚(しょうりょうだな)と言われる飾り棚を仏壇の前に置きます。この棚は小さなテーブルの上に真菰(まこも)を敷き、その上に位牌を並べたりご飯や供物をお供えしたりします。四隅に青竹を立てて竹の上に縄を張り、そこにホオズキや素麺昆布などを飾る地域もあります。子供のころに精霊馬(しょうりょううま)を作った方もおられるでしょう。精霊馬とはキュウリを馬、ナスを牛に見立てて、ご先祖様の霊の乗り物として作られます。


キュウリの馬には「早くお迎えしたいので、足の速い馬に乗って来てください」ナスの牛には「お土産がたくさんあるので、力持ちの牛に乗って、ゆっくりとお帰りください」という願いが込められています。キュウリは足の速い馬に見立てるため細身のキュウリを用意します。真っ直ぐのキュウリより少し曲がった方が飾ったときに馬らしく見えます。ヘタを頭に見立てて、お腹にあたる部分に長めの割り箸4本を刺します。前脚と後脚の間を少しあけると足の速そうな馬に見えてきます。ナスはヘタを頭に見立て、胴の部分に短い4本の割り箸を刺します。ナスは牛を表すので、大きくどっしりとしたものを準備します。ナスも曲がったものを選ぶと牛らしくなります。精霊馬を飾るときは向きにルールがあります。仏様が極楽から乗って来る馬は、頭を自宅の方へ向くよう飾り、あの世に戻るときに使う牛は、玄関の方向へ頭を向けます。


お盆が過ぎたら「ご先祖様を乗せて下さりありがとうございました」と感謝の心を添えて塩で清めて半紙に包み処分してください。昔は飾り物と一緒に燃やしたり、川に流したりしましたが今は不可能です。やってはいけないのは食材として食べるという方法です。他のお供え物は食べて供養しますが、精霊馬だけは役目に感謝して処分してください。


お盆の時期に亡くなった方が出ると必ず「お迎えが来た」と言われます。この時期は葬儀屋の繁忙期でもあります。一人では帰りたくない仏様が連れ帰る人を探しているのかもしれません。

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