おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

しっかりと休んで悲しむ

お葬式の後に「ドッと疲れが出て寝込んでしまった」というお話を聞くことが多くなりました。送り出す家族の高齢化が進んでいるのも原因の一つだと思います。お葬式を済ませた後は、年齢の若い方でも疲労困憊になる方が大部分です。弔事は急に訪れます。思いもよらぬ出来事に精神や肉体がついていかないのです。


特に事故や災害での突然の別れは、立ち直ることさえ出来ないのではと思うくらいに悲しみのドン底に落とされます。周りがかける言葉も見つからない程ショックを受ける家族を何組も見てきました。お葬式後の疲労感は、身体的な疲労よりも精神的なダメージから受ける心の疲労の部分が大きいのです。


お葬式は短期間でさまざまな準備が必要になります。慣れない作業を短期間でこなさないといけないという忙しさから、休憩や睡眠が充分に取れません。睡眠不足に加えてストレスも溜まります。初めて経験する儀式に慣れていないのにお葬式独特のしきたりや、親戚を始め第三者の言動の対応で精神的に苦しめられるのです。


亡くなってからお葬式までの時間は限られています。この短い時間で大切な人が亡くなったという現実に、心が追いつかない人も多いのです。家族を失った悲しみの気持ちを切り替える事が出来ないままお葬式を行うと、心が感情を受け止められず、ストレスになります。ご家族の中には、精神と現実の行動が伴わずお葬式の最中にパニックになり頭痛や嘔吐といった症状を引き起こす方も見てきました。


なんとかお葬式を済ませてもその後、忌明け法要や納骨と法事の準備に追われます。位牌や墓地墓石、銘板の彫り込み、満中陰返しと一区切りつくまで連日の作業が必要です。死亡に関わる行政関係の手続きを始めとする、いろいろな契約関係や相続も、待ったなしにやってきます。息つくヒマもないような忙しい日々が続くのです。


家族を失った悲しみで精神的症状を感じた方や、お葬式の後で身体や心に疲れを感じたら、まずはしっかり休んでください。時間が迫る準備や手続きは家族や親戚に相談します。出来るなら友人やご近所とそして葬儀屋の担当者を頼ってください。避けて欲しいのは、1人だけで抱え込まない事です。


駆けつけた病院のベッドで看取る臨終の瞬間から、搬送、打合せ、安置、納棺、通夜式、告別式、初七日法要とお葬式に関連するすべての行事を行うには、時間も体力も、そして気力も必要です。乗り切るには充分な休息と適度の栄養補給は絶対に欠かせません。喪主様を始めとする喪家様ご家族に、そのことを理解してもらい、守って頂く事も葬儀担当者としての重要な仕事の一部です。


私は一連の旅立ちの流れで、思いっきり悲しんで頂く時間と場所を作る様に考えます。悲しみも短期集中で味わうことで、結果的に精神的な疲労感からの立ち直りも早くなると知っているからです。


本日のお通夜が終わった喪主様にも疲労の様子が見えます。そっと声をかけます。
「今日の夜はスタッフが寝ずの番をしてお線香を守ります。少しでも横になって明日の告別式に備えてください。ムリをされると故人様が悲しむと思います」

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